NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学


cover
■メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (新書)

2007年4月初版。松永和紀著。カズノリではなくワキ。食卓の安全学―「食品報道」のウソを見破るなどの著作がある。プロフィールによれば毎日新聞社の記者として10年勤めた後に退職し、現在、フリーの科学ライター。内容は主に「あるある大辞典」に代表されるあやしい健康情報批判であるが、この本の独自の視点は、個々の事例批判のみならずその背景にある報道の問題点の指摘にある。


マスメディアは、[科学につきものの]このグレーゾーンをうまく伝えることができません。多種多様な情報の中から自分たちにとって都合の良いもの、白か黒か簡単に決めつけられるようなものだけを選び出し、報道します。メディアによる情報の取捨選択のこうしたゆがみは、米国では「メディア・バイアス」と呼ばれています。(P5)

私などは匿名の立場でお気楽なトンデモ・ニセ科学批判をしているが、報道の間違いを指摘して「マスコミは馬鹿だ」で終わりになりがちだ。この本では、医師や科学者の立場からではなく、元新聞記者・科学ライターという立場からの報道のあり方を問う。


捏造をののしるだけではダメです。情報の受け手が単純さを求めるのをやめ、メディア・バイアスを意識して、溢れる情報に疑問を持ち、質(たち)の悪いものについては「番組の途中でチャンネルを変える」「週刊誌を買わない」などと行動しないと、メディアは何も変わりません。(P6)

メディア・バイアスに気を付けようという声は、それをもっとも必要とする人(「あるある大辞典」を見て納豆を買いに走るような人)には届きにくいものだ。ニセ科学批判本を買うのは、ニセ科学に騙されている人でなく、普段からニセ科学批判の情報を集めている人だ。けれども、捏造事件についての記憶が新しいうちであれば、耳を傾けてもらえるかもしれない。とりあえず私は、母にこの本を読ませる。