NATROMのブログ

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薬害でも被害者でもないかもしれないのに

タミフルと異常行動の因果関係については、現時点でははっきりしたことは言えない。はっきりさせるには、年齢・性別・重症度等を一致させたインフルエンザ患者を2群に分け、一方にのみタミフルを使用し、異常行動の出現頻度に差があるかをみればよい。差はないかもしれないし、タミフルによって異常行動が増えるかもしれないし、もしかしたらウイルスの増殖を抑制することで異常行動を抑制するかもしれない。実際には厳密な研究は困難であるので、当面はタミフル非投与のインフルエンザ患者にどれくらい異常行動が起こるのかの報告待ちといったところである。因果関係が不明であっても、可能性がある以上、原則禁止にする判断もありだ。また、製薬会社や厚生労働省に頼らず、薬害を監視する団体があってもよいと思う。

しかしながら、「薬害タミフル脳症被害者の会」*1という名称はいただけない。現時点では、薬害と決まったわけではないし、タミフル脳症という疾患概念も医学的に妥当なものではない。そもそも「被害者」であるとは断定できない。この辺りは、医療過誤があったわけでもない、病気で亡くなった患者を「被害者」と書く、まるで適切な治療さえすれば病気で人は死なないかのように勘違いしたマスコミに通じるものがある。薬害タミフル脳症被害者の会の目的を以下に引用する。*2



本会は、タミフル(リン酸オセルタミビル)とタミフル脳症(注)、およびそれに伴う死亡との因果関係を、国、製薬企業、医療関係者に認めさせ、タミフルによる薬害を広く国民、医療関係者に知らしめ、タミフルによる薬害を防止するとともに、被害者およびその家族・遺族が救済されること、そのことを通じて、他の薬害をも防止することを目的とする。


最初に述べたように、タミフルと異常行動の因果関係は不明である。現時点では、タミフルと異常行動に因果関係があるかどうか知っている人はいない。誰も知らないことを「国、製薬企業、医療関係者に認めさせる」ことが会の目的になっている。「因果関係があるかどうか調査せよ」「因果関係の有無に関わらず、患者を何らかの形で救済せよ」「因果関係が不明であっても、タミフル服用後の有害事象の情報の周知を徹底せよ」という目的であったら、私は賛同する。しかしながら、証明されていない因果関係を認めさせるのが目的の会には反対だ。むろん、遺族の感情を考慮すると、何かを悪者にしたいという心情は理解できる。しかし、専門家が、遺族の感情に乗っかって、科学的・医学的な考察を怠った主張を行なうのは不適切である。

昨日、タミフル服用なしの異常行動の記事を紹介したときに、『「タミフルなしでの行動異常は、別の薬の副作用だ」などと言い始める馬鹿が出てくるかもしれない』と、半ば冗談で書いたが、医薬ビジランスセンターの浜六郎氏の主張はまさしくその通りであった*3



タミフルによる異常行動は、ほとんど1日目だけに集中していますが、
1〜2abc、3.4ab などの薬剤は、1日目だけでなく、
服用期間中はずっと、異常行動やせん妄を起こす危険性が続きます。

したがって、タミフルが服用されていなくても、他の薬剤でせん妄や
異常行動を起こすことは、よくあるのです。中には事故を起こす子が
いても不思議はありません。

したがって、報道された子が、どのような薬を服用していたのか、
調べた上で考えなければなりません。

おそらく、何らかの薬剤が使用されているはずです。
純粋に、インフルエンザだけで起きるという異常行動は
それほど多いとは思えません。たぶんに薬剤が関与していると
おもいます。


まさしく、最初に薬害ありきの姿勢がよくわかる。あらゆる薬には副作用があるので、これではインフルエンザに対しては一切の薬(アセトアミノフェンすら!)は使用できなさそうである。自然治癒する病気には薬は使うなというわけである(インフルエンザは死ぬこともある病気ではあるが)。だったらワクチンを打って予防すべきということになるが、浜六郎氏は、インフルエンザワクチンにすら反対している*4。製薬会社の宣伝等により、不必要な薬が使われる傾向はあるので、それを批判するのはよかろう。しかし、浜六郎氏は警鐘を鳴らす意味であえて極端なことを言っているわけではなく、真性のトンデモさんであるようだ。


*1:URL:http://www.tamiflu89.sakura.ne.jp/index.htm

*2:URL:http://www.tamiflu89.sakura.ne.jp/kai.htm

*3:薬害タミフル脳症被害者の会 皆様の声 No.186より URL:http://www.tamiflu89.sakura.ne.jp/cgi/goiken/c_note.cgi

*4:たとえば「不必要かつ副作用の心配、さらに経済的負担のかかるインフルエンザワクチンは、接種しないことをお勧めします」URL:http://www.yukan-fuji.com/archives/2005/02/post_1487.html。世界標準と比較して日本ではタミフルを使いすぎだ、などと言う一方で、ワクチンに関しては世界標準を都合よく無視している