NATROMのブログ

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シュテッフェンの多面体

■パズルでめぐる奇妙な数学ワールド の第14章の『アコーディオンは「欠陥楽器」か!?』からのネタ。平面図形として三角形は「唯一」の安定した多角形なのだそうである。「安定」とは、辺の長さはそのままで形が変わらないということである。たとえば、長方形は辺の長さはそのままで異なる形になりうる(下図)。では立体ではどうか。辺の長さだけが不変でいいなら直方体は潰れるように形は変わりうることは容易にわかるが、面の形を不変とするならどうだろう。

長方形は安定ではない


ほぼ200年にわたって、数学者は多面体の安定性やら何やらに悩まされてきた。多面体とは有限個の面を持つもので、面のそれぞれは多角形で、辺を境界にして二つずつがつながっている。従来、三角形の面だけでつくられる多面体はすべて安定していると考えられてきたが、最近になってそれが間違いだとわかった。このあと紹介するように、どの面もほんのわずかでさえ曲げたりゆがめたりすることなく、形状を「自由」に変えられる多面体が存在する。

で、実際にこの多面体の展開図が紹介されていた。面同士が貫通して自由に動ける必要のあるもの(辺のみを針金が作れば実際に作れる)はラウル・プリカールが、面同士が貫通しないものはコネリーが発見した。紹介されてあるのは、クラウス・シュテッフェンが構造を単純化したもので、展開図のキャプションには「シュテッフェンによる形状が変わる多面体」とある。

展開図を見ただけでは、どのような立体になるのか想像がつかない。仕事柄、病院内に待機していなければならないが、特にすることがないという時間もあるわけで、深夜で他の先生方がほとんどいないときを見計らって作ってみた。まずは、展開図を拡大コピーして、厚紙に張り、きれいにハサミで切り取る。

シュテッフェンの多面体の展開図

切り取ったあとは、線に従って山折りと谷折りで折り目をつける。辺と辺を接着するのに、のりしろありとのりしろなしの2バージョンつくったが、のりしろなしのほうが仕上がりはきれいになった。どうせ糊ではつきが悪く、結局はセロハンテープを使うことになるので、はじめから全部セロハンテープでつくったほうがまし。できあがりは以下の写真の通り(のりしろなしバージョン)。

シュテッフェンの多面体の完成図

少しよがんでいるのはご愛嬌。動かしてみると、確かにペコペコ動く。作りが悪くてたわんでいるだけではないかという気もしなくもないが、まあ少なくとも感じはつかめた。実はこのような多面体は動かしても体積が不変であるそうな。『アコーディオンは「欠陥楽器」か!?』という章のタイトルはそのことに由来する。確かに、動かしてみると、離れる面と面の部分もあれば、近づく面と面の部分もあり、まあ多分体積は一定なんだろうなという気にさせる。面白いのはこの多面体を煙を満たし、形状を変えてみて煙が吐き出されないことを実験で確認した先生がいたこと。もちろん証明にはならないものの、数学の世界にも実験があるのだなあと感心した次第。



追記
別の角度から。凹部分がある。ただ、写真じゃたくさんあってもよく分からんと思う。

シュテッフェンの多面体の完成図