NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

妊婦に対するインフルエンザワクチンの安全性


おまけ。妊婦がインフル予防注射した場合に胎児死亡率は4250%増加するっていう告発記事をみた。怖!っていうか当たり前っていうか?!http://healthimpactnews.com/2012/4250-increase-in-fetal-deaths-reported-to-vaers-after-flu-shot-given-to-pregnant-women/
https://twitter.com/dmburg/status/273411960064847872



昨日の「妊婦がインフル予防注射した場合、胎児死亡率が4250%増加する」っていう記事の元論文はSage PublicationsのHuman & Experimental Toxicology, Sept 2012 概要は→http://het.sagepub.com/content/early/2012/09/12/0960327112455067
https://twitter.com/dmburg/status/273693677111631872



インフルエンザワクチンが胎児に悪影響を与えるという可能性はあるが、いくらなんでも「胎児死亡率が4250%増加」って無いだろう。元論文のサマリーを読んだけど、2009/2010のシーズンで報告された"fetal-loss report rates"が大きいって話のようだが、42.5倍なんて数字がどこから出たかはサマリーを読む限りではわからない。本文に書いてあるのかな?("an ascertainment-corrected rate of 590 fetal-loss reports per million pregnant women vaccinated (or 1 per 1695)"ってあるけど、 fetal death ratesって普通はもっと高い。1000対で数人とか。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22897542 では、アメリカ合衆国のfetal death rateは人種によって2.6〜5.9 "Among non-Hispanic Black women and Hispanic women, the fetal death rate was higher than among non-Hispanic White women (5.9 and 3.6 per 1000 deliveries, respectively, vs 2.6 per 1000 deliveries; P < .01).")

「こういう報告もある」って話なら、インフルエンザワクチン接種は、先天性奇形の発病率に影響せず、死産や新生児の死亡率を下げるという報告もある。■インフルエンザワクチン、胎児への影響なし - QLifePro医療ニュース。元論文は、たぶん、■Effect of influenza vaccination in the first ... [Obstet Gynecol. 2012] - PubMed - NCBI

こちらは"retrospective cohort study"なので、"Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS) database"を基礎とした報告よりも信頼性は高いと思われる。ただし比較試験ではないので、死産や新生児の死亡率を下げるのは、ワクチンの効果ではなく、交絡によるである可能性は残る。

他にもざっと調べたけど、インフルエンザワクチンの接種が胎児死亡を上げるという報告は見つけられなかった。差が無いという報告ならぼちぼちある。


追記:42.5倍の謎はわかった。ヒント:http://megalodon.jp/2012-1129-2116-48/gaia-health.com/gaia-blog/2012-10-14/swine-flu-vax-increased-vaccine-related-miscarriages-6-11-times/ 。思ったよりひどかった。