NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

効果が否定されたときのホメオパスの言い訳を予想してみよう

民主党政権は代替医療の利用に前向きであり、統合医療の研究について十億円以上の予算を計上して取り組んでいきたいのだそうだ。長妻大臣の発言を引用する。


■第174回国会 予算委員会 第3号 平成二十二年一月二十八日(木曜日)


○国務大臣(長妻昭君) この統合医療の重要性に関する思いというのはもう総理からもかねがね聞いているところでございまして、おっしゃるとおり、今厚生労働省内で統合医療をかかわる部署というのが、例えば大臣官房の科学課、医政局の医事課、経済課、振興課、保険局医療課ということで四つほど分かれて、それ以外にも分かれておりますので、これは今後、統合医療の省内でプロジェクトチームをつくりまして、これを一本にまとめていくということで検討していくということであります。
 統合医療は、もう言うまでもなく、西洋医学だけではなくて、伝統医学、漢方、鍼灸、温泉療法、音楽療法、芸術療法、心身療法、自然療法、ハーブ療法、ホメオパチーなどいろいろな広がりがあるものでございまして、厚生労働省といたしましても、この二十二年度の予算でかなりこれまで以上に、研究分野の統合医療の研究について十億円以上の予算を計上しまして、その効果も含めた研究というのに取り組んでいきたいというふうに考えております。


代替医療もいろいろで、効果がないと明らかになっているものもあれば、今のところエビデンスが不十分なだけで将来効果が証明されるかもしれないものもある。■ホメオパシーに予算を割くべきかでも述べたが、ホメオパシーは、代替療法の中でももっとも効果が期待できないものである。私がもし厚生労働大臣で、代替医療の研究を推進したい立場であったら、「ホメオパシーのように効果がないと証明されたものもあるが、いまだ効果の有無が不明な代替医療もあるので、今後の研究が必要である」と言うけどな。それはともかく、こうした政府の動きを受けて、さっそく日本ホメオパシー医学協会は、『厚生労働省のプロジェクトチームと確認をとり、担当者の要請に応え、「ホメオパシーに関する提言と説明資料」を提出』したそうである。


■日本ホメオパシー医学協会 平成22年2月22日(月)、日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)由井寅子会長が、長妻昭 厚生労働大臣、及び、厚生労働省 統合医療プロジェクトチーム宛に「ホメオパシーについての提言と説明資料」を提出しました。


提出資料の中ではホメオパシーにかかわる有効性(症例集やエビデンス)、海外での普及・活用状況、教育及び資格認定制度の実態、日本での活用状況や利用者実態調査結果、また日本で唯一ホメオパス職業保険を持つ団体として資格認定制度への提言、ICHなど海外ホメオパシー団体からのホメオパシーに関する推薦文などを盛り込み、ホメオパシー統合医療への提言と申請書として、長妻厚労相とプロジェクトチーム宛てに200ページを超える報告書として提出しました。合わせて、臨床での治癒事例としてのDVD映像(症例集)や一般の方向けの講演会「症状はありがたい」のDVD説明資料を添付いたしました。 また、寄せられたホメオパシーYES! 約1万人のアクションホメオパシー署名も持参し、今、多くの国民がホメオパシーを必要としていることを訴えました。


商売でやっているだけあって、さすがに対応が早い。何らかの対抗言論を出すのが望ましいが、それにふさわしい団体を思いつけない。個人的に何か書くかもしれない。それはともかく、かような状況からして、ホメオパシーに予算が振り分けられる可能性は低いとは言えない。もしそうなったとして、強いて「よかった探し」をするならば、否定的な研究成果が出れば、「政府が公的にホメオパシーは効かないと認定した」という事実が得られることだろう。ただ、私は、たとえ国が公的にホメオパシーの効果を否定したとして、状況はほとんど変わらないだろうと考えている*1。代替医療側は、効果なしの研究結果について言い訳するのに長けている。どのような言い訳がなされるか予想してみよう。

  • 「○○病」については、ホメオパシーの効果は認められなかったとしても、他の疾患についてホメオパシーの効果がなかったと証明されたわけではない。
  • 現代の科学では効果が証明できなかっただけである。科学が進歩したら、ホメオパシーの効果が証明されるだろう。
  • そもそも、ホメオパシーの効果は実感するものであって、科学的に測定できるものではない。
  • エビデンスの有無なんかより治った、よくなったという事実のほうが大切だ。
  • (対照群と有意差がないことは隠して)国が行った研究でも、ホメオパシーで患者のうち○○%は良くなったことが明らかにされた。
  • ホメオパシーの効果はホメオパスの能力や資質に影響される。国の研究に参加したホメオパスが下手くそなだけで、私たちの流派のレメディなら効く。
  • ホメオパシーが普及すると一般の医師や製薬会社が損害を被る。利権を守ろうとする陰謀によって研究成果が捻じ曲げられた。「ホメオパシーに効果なし」という結果が出たことが証拠だ。


他にも言い訳を思いついたら、コメント欄へどうぞ。これらの言い訳は、潜在的な顧客に向けて発せられるものであり、内容が正しいかどうかはどうでもよく、「カモ」を騙せればそれでよいわけだ。これらの言い訳の欺瞞性を正しく見抜ける人は、「ホメオパシーには効果がなかった」という国のお墨付きがなくったって、はじめからホメオパシーなんかには引っかからない。イギリスのように、ホメオパシーが公的保険の適用になっていた国ならば、否定的な研究によって保険適用から外すという名目ができる分だけ有用であるが*2、日本では、最終的に否定的な結果になったとしても、ホメオパス側にはほとんどダメージにはならない。

ホメオパシー研究に予算をつぎ込むことは、単に研究費が無駄になるだけでない。まず「ホメオパシーの効果を国が調べる」ということ自体が宣伝に利用されるだろう(というか既にされている)。また、二重盲検でなければバイアスや、あるいはタイプ1エラーによって、「ホメオパシーに効果がある」という結果が出る可能性すらある。本来、効果を証明する責任を負っているのは、ホメオパス側である。代替医療を提供する側は、しばしば、利用者の多さを自説の正しさの根拠とする(「もしプラセボと同じ効果しかないのであれば、とっくにすたれているはずだ。お客さんはバカじゃない。多くの顧客が支持していることこそ、効果があるという証拠だ」)。ならば、そのたくさんの利用者から、研究のための資金を提供してもらえばよろしい。ホメオパシージャパンのサイトによれば、「全国のホメオパシーセンターに毎月3000人のクライアントが健康相談に訪れ、5万人の一般会員がホメオパシーを利用して」*3おり、イベントでは「フラワーエッセンスをはじめ、マザーチンクチャー、そしてホメオパシーレメディー、トゥースペーストなどが飛ぶように売れ」*4ているそうだ。その利益の一部を研究に回せ。

*1:化学物質過敏症については、国による研究は「超微量の化学物質によって症状が誘発される」という仮説に否定的な結果であったが、マスコミや臨床環境医たちには何ら影響を与えていないように見える。参考:■化学物質過敏症は負荷テストで反証不可能?

*2:余談だが、代替療法研究の主目的が医療費抑制であるなら、現在保険適用になっているが効果が明確でない治療法を再評価したほうが効率的だと思う

*3:URL:http://www.homoeopathy.co.jp/sinchyaku_new/index.cgi?index=1448

*4:URL:http://www.homoeopathy.co.jp/sinchyaku_new/index.cgi?index=1860