NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

毎日新聞クオリティ

新聞記者はさまざまな分野の記事を書かないといけないので、専門家からみたら正確さに欠ける記事になってしまうのはある程度は仕方がないと言える。しかしながら、ある特定の新聞社の記事だけが、ある特定の方向へのみ不正確になっているとしたら、それは「仕方がない」と言えるのだろうか。最近、実例を続けて二つほど目にした。


■タミフル:異常死で提訴 岐阜の遺族、因果関係の解明求め*1(毎日新聞)(魚拓


04年2月にインフルエンザ治療薬「タミフル」服用が原因とみられる異常行動で死亡した、岐阜県下呂市の男子高校生(当時17歳)の遺族が、独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」が死因を「別の薬による副作用」と認定したため精神的苦痛を受けたとして、機構に100万円の損害賠償を求めて岐阜地裁高山支部に近く提訴することが、24日分かった。タミフルの副作用問題で、患者側が因果関係の解明を求めて提訴するのは初。

強調は引用者による。以降、引用中の強調はすべて引用者による。遺族による提訴の是非はここでは問わない。問題は、記事の正確性である。タミフルが原因と見られる異常行動と書いてあるが、本当にそうなのか。インフルエンザはそれだけで異常行動を起こしうるし、この例では他の抗インフルエンザ薬であるシンメトレルも投与されている。もしかしたらタミフルが原因なのかもしれないが、それは未確定である。にも関わらず、毎日新聞はタミフルが原因と見られる異常行動と書いた。これが他の新聞社ではどうか。


東京新聞*2


二〇〇四年にインフルエンザ治療薬タミフル服用後に異常行動を起こし、死亡した男子高校生=当時(17)=の遺族が、副作用被害を認定する厚生労働省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(東京)から「タミフルの影響ではない」と判定され精神的苦痛を受けたとして、同機構を相手取り、慰謝料百万円を求める訴訟を週内にも起こすことが二十三日、分かった。


読売新聞*3


タミフル服用後に異常行動を起こして死亡した岐阜県の男子高校生(当時17歳)の遺族が、タミフルとの因果関係を否定され、精神的苦痛を受けたとして、副作用かどうかを認定する厚生労働省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(東京都)に対し、慰謝料100万円を求める訴訟を起こすことが24日わかった。


朝日新聞*4


04年にインフルエンザ治療薬「タミフル」の服用後、異常行動を起こして死亡した男子高校生(当時17)の遺族が、厚生労働省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(東京都)を相手取り、因果関係を認められずに精神的苦痛を受けたとして、慰謝料100万円の支払いを求める民事訴訟を、岐阜地裁高山支部に近く起こすことが24日わかった。原告側によると、タミフルと異常行動の因果関係をめぐる訴訟は初めて。


他の新聞社は、タミフル服用後に異常行動を起こして死亡と事実のみを記し、タミフルが原因だったかどうかにについては書いていない。タミフルが原因だったかどうかが争点なのだから、「タミフルが原因とみられる」などと書くのは中立とは言えない。


もう一つの例。


■医療ミス:肺の血栓を誤診、80代女性が死亡−−愛媛の県立病院*5(毎日新聞 大阪朝刊)


松山市の愛媛県立中央病院(上田暢男院長)は25日、入院していた80歳代の女性患者が今年4月に主治医のミスから、深部静脈血栓症による肺塞栓(そくせん)を起こして死亡したと発表した。遺族には既に謝罪し、示談交渉中という。

この件が本当に医療ミスなのかどうかはここでは問わない。毎日新聞の記事からは、主治医のミスによって肺塞栓が起き、そして死亡したように読める。主治医のミスがなければ、あたかも肺塞栓が起こらなかったような書き様である。


読売新聞(愛媛版)*6


県立中央病院は25日、左足骨折で入院していた松山市内の80歳代の女性患者が、肺塞栓(はいそくせん)で死亡したのは、必要な措置が取られていなかった医療ミスとして公表した。遺族には謝罪済みで、示談交渉中という。


NHK 愛媛のニュース*7


松山市にある県立中央病院で、ことし4月、骨折などで入院した80代の女性が手術から17日後に死亡し、病院側は、手術後、呼吸困難や意識がなくなるなどの症状が出た時に、主治医が必要な措置を取っていれば助かった可能性もあったとして、25日までに遺族に謝罪しました。


愛媛新聞社*8


県立中央病院(松山市春日町、上田暢男院長)は25日、骨折で入院していた松山市の80代女性患者が4月、治療過程での病院の判断ミスが影響し、深部静脈血栓症による肺塞栓(そくせん)の疑いで死亡したと発表した。


他の報道では、肺塞栓の発症そのものではなく、その対応に問題があったとしており、少なくともミスから肺塞栓が起こったとは書いていない。なお、読売新聞では、CT用の造影剤にアレルギーショックを起こす可能性があり検査がためらわれたという院長の言葉を掲載している。NHKでは医療ミスという言葉は使われておらず、病院側の主張を「主治医の判断の甘さから起きた医療事故だった」と伝えている。

毎日新聞は最近他にも、「点滴用カテーテルを胃に挿入したが不十分で、栄養剤が口腔内に漏れ出し腹膜炎を発症」というわけのわからない記事を出している(参考:■支離滅裂@医療報道を斬る)。医療に関しては、毎日新聞が頭一つ抜け出ているという感じ。



2007年7月27日追記

m3の掲示板経由。見落としていたけど、肺塞栓に関する毎日新聞の記事では、


病院によると、患者は左もも骨折で手術を受け、13日目に呼吸困難となり唇が青ざめた。

左もも骨折って…。

*1:URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070724dde041040027000c.html

*2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007072402035180.html

*3:魚拓。元記事のURL:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070724i105.htm

*4:魚拓。元記事のURL:http://www.asahi.com/national/update/0724/NGY200707240010.html

*5:URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/news/20070726ddn012100011000c.html

*6:魚拓。元記事のURL:http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ehime/news003.htm

*7:魚拓。元記事のURL:http://www.nhk.or.jp/matsuyama/lnews/07.html

*8:魚拓。元記事のURL:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20070726/news20070726572.html