NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

病院に喫煙ルームはあっていい

私が勤務していた大学病院は、屋内は全面禁煙だった。喫煙所は屋外にあり、屋根はついているものの四方の一面だけにしか壁はなく、風を遮るものはない。冬はさぞ寒いだろう。また、雨天時には、傘をさすか濡れる覚悟がないと喫煙所にはたどりつけない。そばを通るときはタバコの臭いがして不快ではあったが、喫煙所でタバコを吸っている方々はマナーを守っている喫煙者であり、不便を強いられていることに同情する気持ちのほうが強かった。





喫煙所。屋根がないと雨天時に利用されないから機能評価に通らないらしい。



屋内に喫煙ルームをつくればいいのに。患者さんの背景はさまざまだ。腸疾患で口から食べることができず、喫煙ぐらいしか楽しみがないという患者さんもいる。悪性疾患で余命が長くない患者さんもいる。そういう人たちに対して禁煙しろとは私はとても言えない。雨や寒さの心配をせずにタバコぐらいは吸わせてあげたい。

喫煙者の趣味嗜好に対してなぜ非喫煙者がコストを負担しなければならないのか、という意見も理解できないでもないが、別にすべての病院に禁煙ルームをつくれと言っているわけではない。小さい施設であればコストに見合わないということはあるだろうが、大病院で利用者が多いのであれば、寒さや雨を心配せずに喫煙できる場所があってもいいじゃないか。それぐらいのコストなら負担してもいいよ。非喫煙者としても、煙がダダ漏れの屋外の喫煙所よりかは、屋内の喫煙ルームできちんと分煙できたほうが望ましい。

病院が屋内に喫煙ルームをつくらない理由の一つが、病院機能評価である。評価項目の一つに、「ベランダ、屋上、出入り口を含む全館禁煙を原則とする」とある。要するに、屋内に喫煙ルームがあったら、分煙が徹底されていても病院機能評価に落ちるわけだ。患者さんは病気を治すために入院しているので、禁煙が望ましいというのはわかる。しかし、成人がリスクを承知した上で喫煙するのは自由であろう。病院機能評価の評価項目で、「精神科、療養病棟、緩和ケア病棟は分煙について評価する」とあり、一応の配慮はあるものの、一般病床の患者さんだって、喫煙によって生活の質が上がるという人だっているのである。





財団法人日本医療機能評価機構のサイトの一般病院版 評価項目(Ver.5.0)より*1


全館禁煙、敷地内禁煙ではなく、分煙がなされているかどうかを評価の対象にすべきだと私は考える。敷地内禁煙の施設であっても、施設から一歩出たところが事実上の喫煙所になっていれば、出入り口を通る人が煙を吸うことになる。分煙が徹底されているほうがいい。「一般病棟についても、全館禁煙ではなく、分煙を評価せよ」という主張であれば、賛成する非喫煙者もいるだろう。「禁煙ファシズム」批判をしている人たちは、「嫌煙運動批判が一種のタブーとなりつつつある」などと言っているが、喫煙の害を否定するような阿呆なことを言っているからだ。


*1:URL:http://www.report.jcqhc.or.jp/cgi-bin/koumoku.cgi?page_id=hk030P&version=5.0&hyoujikubun_id=12&ryouiki_id=3&koumoku_id_d=6&hukugou_id=0