NATROMのブログ

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遺伝学と言語学と


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■わたしは誰、どこから来たの―進化にみるヒトの「違い」の物語 スフォルツァ (著)

■文化インフォマティックス―遺伝子・人種・言語。 [単行本] スフォルツァ (著)

原著はそれぞれ1993年および2001年。久しぶりにこの手の本を読んだ。基本は遺伝学の本。著者(「わたしは誰、どこから来たの」は息子との共著)のスフォルツァはイタリアの遺伝学者。R.A.フィッシャーの直弟子。

遺伝学者といっても計算ばかりしているわけではない。というかフィールドワーカー。いきなりピグミーの話から始まる。ヒト遺伝学をやるにはサンプルが必要だ。当然、アフリカのさまざまな民族のサンプルも必要であろう。

「わたしは誰、どこから来たの」の原著の1993年は20年前。ネアンデルタール人の行く末について2つの説が紹介されている(P90)。「現代のヒトとの競争で絶滅した」「現代のヨーロッパ人に変わった」。著者は前者を支持すると書いてある。

現在では(ごく稀な例外があるかもしれないにせよ)後者を支持する学者はいないだろう。よって、二つの説を併記する必要もない。もちろん、「ミトコンドリア・イブ」をはじめとした人類遺伝学の進歩による。ヒトゲノム計画以前。使える遺伝マーカーも少なかったころの話である。

人類遺伝学についての話は他の本でも読めるが、この二つの本の特色は、遺伝学のみならず、言語学からも人類起源を論じていることである。言語も進化し、系統樹を描くことができる(ダーウィンもそのことについて言及していたそうだ)。言語と遺伝子の系統樹は、興味深い例外もありつつ、概ね一致する。