NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

エコパラダイス処理でアレルギーフリーに?

卵や小麦をアレルギーフリーにする謎の技術がいつのまにか開発されたらしい。


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卵も小麦も使っているのにアレルギーフリーになっちゃったんです。


「エコパラダイス工法の電子が豊富な酸化還元空間に置く事により残留?した抗生物質や農薬等のアレルギー物質を分解除去*1」するらしい。いったいどのような機序でアレルギー物質が分解されるのか、はたまた、どうやって分解されたことを確かめたのか、不明である。そもそも卵や小麦のアレルギー物質(アレルゲン)は主に蛋白質であって、残留した抗生物質や農薬ではない。

エコパラダイス株式会社のサイト((URL:[]http://www.barbarians.co.jp/[]))では、非科学的な説明が散見されるものの、さすがに「エコパラダイス処理でアレルギーフリーに」などという危うい説明はなされていない。「アレルギーフリーになっちゃったんです」とブログに書いた人は、エコパラダイスのユーザーであるようだ。まあ、それぐらいなら、この人の知り合い・家族に食物アレルギーの人がいませんように、と願うぐらいだ。しかし、この人は、産業フェアにおいて、「アレルギー対応」と称して大判焼を販売してしまった。





体にとってもやさしいアレルギー対応


不特定多数の人に販売する際に、科学的根拠のない処理しか行っていないにも関わらず、「アレルギー対応」と称するのは問題がある。産業フェアの出店で購入しかけた人が「食の安全・市民ホットライン」に訴え、「食の安全・市民ホットライン」から保健所に対して「批判に対処するよう要請文」が送付された*2。で、エコパラダイスのユーザーであるブログ主のところに保健所職員がやって来た。そのとき顛末がブログにアップされている。


■保健所が来た! - 住まいに安らぎを - 楽天ブログ(Blog)


保健所から職員さんがお二人お見えになりました。
何かなと思ったら、食の安全・市民ホットラインに訴えがあったそうでお越しになったそうです。

そこでお話を聞いてホームページを見まして思った事書いときます。

訴え原文----

産業フェアの出店にて、卵アレルギーの人でも食べられるとの表示と呼び込みで購入しかけましたが、うさんくさいと思い購入はしていません。その後、本当に食べられるならと思い、この商品についてインターネットで調べたところ、明らかに嘘と思われる特殊な加工技術についての宣伝が書かれていました。直接被害を受けたわけではありませんが、憤りを感じて告発するものです。アレルギーへの認識が甘く、放置すれば危険だと思います。なお、特殊な加工技術は、「エコパラダイス(株)」なる会社の開発ということになっており、問題の根はこの会社にあると思われます。

ここまで----

うさんくさいと思う思わないは人の勝手です。
実際に、食べもしないでどうこう言うのはおかしいと思います。
僕は、先ずうさんくさいし文句を言おうと思えば、実際に手にしてみます。
そうしないと本当の事はわからないと思うからです。
最近は、この様にしていいものを変な固定観念で叩きつぶす風潮がネット社会になってあるので何とかならないものかと憤りを感じています。


食の安全・市民ホットラインに訴えた人、食の安全・市民ホットライン*3、保健所ともに、GJ(グッジョブ)である。「食べもしないでどうこう言うのはおかしい」というブログ主からの反論こそが、告発者の「アレルギーへの認識が甘く、放置すれば危険だ」という危惧が正しいことを示している。被害が生じてからでは遅い。むしろ、ブログ主は告発者に感謝すべきである。もしかしたら、保健所ではなく、警察が来る事態になったのかもしれなかったのだ。

エコパラダイス処理とやらで食品が「アレルギー対応」になったかどうかを確認するには、処理した食品を実際に食物アレルギーの人(複数)に食べさせてみる負荷試験が必要である。緊急事態に対応できるよう医師の監視下のもとに行われ、第三者が検証可能な形で結果は発表されるべきである。そのような試験をせずに、「アレルギー対応」を謳うものは、別に食べもせずに「うさんくさい」と判断してよいし、判断するべきである。「試しもせずに文句を言うな」という主張は、詐欺師の常套手段である。「アレルギー対応」を謳う立場の者が、立証責任を負うのである。

また、販売の際に、アレルギーを誘発しないかテストを行えと説明していることは、免罪符にならない。というか、以下に引用する文章だけで、実に多くの間違いが含まれている。



アレルギーについてはいろんなアレルギーがあり、万が一のことがあっては問題と販売時にはバッチテストをして下さいね。と方法も説明差し上げ実際に試験もさせていただいた上での販売をしております。

  • バッチテストって何?もしかしてパッチテスト?。私の知る限りでは、アレルギーを検査するためのバッチテストというものはない。パッチテスト(patch test)ならある。これは、書き間違えただけであるが、後述するように「パッチ」が何を意味するのか理解していないことに由来する。
  • 一般的にパッチテストは食物アレルギーの試験には使われない。主に、パッチテストは、遅延型アレルギー(IV型)の検索のために行われる*4。一方、食物アレルギーのほとんどは、I 型アレルギーである。
  • それパッチテストちゃう。パッチテストの結果が出るには少なくとも数日かかる。何かおかしいと思って読みなおすと、かのブログには「方法は、食べたいそれを手の甲の親指と人差し指の間か唇に触れててみて下さい。アレルギー症状が出る場合は痒いか、痛いか何らかの症状が出ます*5」とあった。これはどのような観点からみてもパッチテストとは言えない。パッチ(patch)とは、あて布とか絆創膏とかを指す。皮膚に貼付するからパッチテストなのだ。
  • 指間・口唇誘発テストでも危ない。「食べたいそれを手の甲の親指と人差し指の間か唇に触れててみる」テストのことを、仮に「指間・口唇誘発テスト」と呼ぶ。指間・口唇誘発テストそのものが危険である。少量でも重篤な発作を起こすことがありうる。また、指間・口唇誘発テストで陰性だったから安全とは言えない。指間・口唇誘発テストに偽陰性がないという証明がない(常識的に考えれば、偽陰性率は高そうだ)。


食物アレルギーの方が「ものを食べられるか食べられないかを見分ける簡単な方法」は存在しない。大判焼を売る売らないに関わらず、アレルギーに関して誤った知識を振りまくのは無責任である。これまで健康被害が生じなくて本当に良かった(ブログ主の耳に届いていないだけで、もしかしたら健康被害はあったのかもしれないが)。

*1:URL:http://plaza.rakuten.co.jp/fujito/diary/201010230001/

*2:URL:http://www.fsafety-info.org/from_consumer.html

*3:食の安全・市民ホットラインについては、■小若順一氏らの薬事法違反(? )を日本消費者連盟が明らかに? - 松永和紀blogも参考にして欲しい。問題がある団体かもしれないが、少なくとも今回の対応は評価できる。

*4:小林・猪熊、アレルゲンの同定、日本臨牀, 67(11) : 2109-2114 (2009)

*5:URL:http://plaza.rakuten.co.jp/fujito/diary/200904130000/