地下に眠るMさんによる医学的にみて純然たる老衰死ってあるの?という質問にインスパイアされて、老衰死の割合および経時的な増減を調べてみた。残念ながら純然たる老衰死の割合は不明であり、ここで論じるのは死亡診断書の死因の欄に「老衰」と書かれたものである。死亡診断書に書かれる死因は結構いい加減なところもあるが、大まかな傾向ぐらいはわかる。
老衰とされた死が増えたのか減ったのか、二通りの考え方があるだろう。医学が進歩し、さまざまな病気の治療法は改良された。もちろん、現代でも克服できない病気は癌をはじめとして多々あるが、それでも過去と比較して寿命は延びた。その分、老衰死は増えたかもしれない。病死して脱落する者が減れば老衰死というゴールにたどり着く者は増えるという考え方である。あるいは、診断技術の進歩により、過去には老衰死とされたような死に病名がつくようになり、老衰死という「診断」は減ったという理屈も成り立つ。90歳の高齢者が意識障害を起こしそのまま死に至った場合、30年前なら検査せずに「これは老衰でしょう」にされていたのが、現在なら頭部CTを撮って「脳出血」という病名がつく。
厚生労働省のサイトにあった死因年次推移分類別にみた性別死亡数の年次推移から、老衰および他の主要な死因の割合をエクセルで表にした。
死因(主要なもののみ) | 昭和45年 | 55年 | 平成2年 | 12年 | 17年 |
老衰 | 5.5% | 4.4% | 2.9% | 2.2% | 2.4% |
結核 | 2.2% | 0.9% | 0.4% | 0.3% | 0.2% |
悪性新生物 | 16.8% | 22.4% | 26.5% | 30.7% | 30.1% |
心疾患(高血圧性を除く) | 12.5% | 17.1% | 20.2% | 15.3% | 16.0% |
脳血管疾患 | 25.4% | 22.5% | 14.9% | 13.8% | 12.3% |
肺炎 | 3.9% | 4.6% | 8.3% | 9.0% | 9.9% |
不慮の事故 | 6.1% | 4.0% | 3.9% | 4.1% | 3.7% |
交通事故(再掲) | 3.4% | 1.8% | 1.9% | 1.3% | 0.9% |
自殺 | 2.2% | 2.8% | 2.4% | 3.1% | 2.8% |
これを見れば傾向は明らかで、老衰による死は減っている。昭和45年は全死亡のうち、老衰死は5.5%。それが平成17年は2.4%で、半分以下となった。2.4%という数字については、実感として妥当に思える。その他の死因については、やはり悪性新生物(ガン)が16.8%から30.1%にほぼ倍増したのが目立つ。科学が苦手な人は、「現代医学はその基本からしてとんでもない錯覚と誤謬に陥っている(現代医学が正しいならガン死は減るはずだが、そうはなっていない)*1」「工業化(つまりは人口物質)にあることは、明らか(喫煙率に大きな変化はなかったから、喫煙はガンの原因ではない)*2」という可哀想な結論に至るが、ガンの増加は単に日本人が長生きするようになったからに過ぎない。
肺炎が増えたのも、高齢者の割合が増えたからと思われる。高齢者の死亡は、純然たる老衰からよりも、肺炎等のきっかけで起こりやすい。非医療従事者にとっては肺炎が死因の上位にあるのは意外なようだ*3。私にとって意外であったのは脳血管疾患が半分以下に減っていること(公衆衛生学で習ったはずだが忘れていた)。高血圧が管理されるようになったためであろうか。他に減っているのが結核と交通事故である。医学の進歩による貢献もあるだろうが、栄養状態の改善や交通安全対策によるところが大きいようだ。