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ピロリ菌:血液型に合わせ変幻自在 感染力の秘密を解明

毎日新聞の記事より。


 ピロリ菌は胃の中にすみ着くため、胃の粘膜と結合するたんぱく質を持つ。一方、胃の粘膜の細胞には、血液型によって異なる形の糖鎖が付いている。研究チームは、胃かいよう患者に血液型O型の人が多いというデータに着目。日本、スウェーデン、ドイツ人などから採取したピロリ菌293株と、ペルーなど南米のアメリカインディアンから採取した80株について、血液型と感染の関係を調べた。

 日本や欧州の人から取ったピロリ菌の95%は、血液型に関係なく、どの胃の粘膜の糖鎖とも結合する万能タイプだった。これに対し、アメリカインディアンから取ったピロリ菌の6割は、O型の糖鎖とだけ結合する特定タイプだった。研究チームは、ピロリ菌が人に感染しやすくなるために、自らO型に特異的な形に変化していった可能性があるとみている。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20040723k0000m040140000c.html

ABO式血液型が胃潰瘍に関係していること、おそらくはその原因がピロリ菌に対する感受性の違いにあることは知っていたけれども(参考サイト:霊長類のABO遺伝子)、なるほど、面白い研究である。記事には明示されていないけれども、アメリカインディアンはO型が多いということであろう。日本や欧州のピロリ菌が万能タイプということは、「胃かいよう患者に血液型O型の人が多いというデータ」は、ピロリ菌以外の説明が必要だということになりそうだが、そうなのか。

それから、研究チームの中澤晶子による「ピロリ菌の感染が世界的に拡大したのは、相手の胃の粘膜がどんな状態でも結合できるよう、たんぱく質の型を自ら調整する能力を持っていたためではないか」というのはやや誤解を招く発言ではなかろうか。なんだか、適応的突然変異のことを言っているように聞こえる。特定の血液型が多い集団内では、その血液型に感染しやすくなる突然変異を起こしたピロリ菌が数を増したのだ、というのがスタンダードな説明だろう。