NATROMのブログ

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主に丸山ワクチンを巡って木原洋美さんへお返事 その2

昨日の■主に丸山ワクチンを巡って木原洋美さんへお返事の続きです。現時点(2024年9月28日18時)において

  • 開けてみたら「全身に転移しており」と言われた』とのことだが、何を開けたのか、「開けてみたら」という記述はやなせたかしさんの著作に書いてあったのか?
  • 2006年の第3相ランダム化比較試験の実薬群(40μg)の生存率の解釈について、外部対照と比較するのは不適切ではないか?

という指摘に対して、木原洋美さんからのお返事や反論は確認できていません。しかし、■木原洋美さんのFacebookに一連のテーマについて言及がありましたので、ここでお返事いたします。


体験談重視という姿勢を隠さなくなった

以下は、「承認に値するだけの質のよいエビデンスを木原洋美さんが提示すべき」という指摘に対するお返事かもしれません。

当初は「体験談のみで判断しているわけではない」といった主張だったはずですが、「信頼できる体験談を100ぐらい、(実際に取材して)発信」するとのことです。木原洋美さんには、「根拠に基づいた医療」という考え方への理解が十分でないことがうかがわれます。「根拠に基づいた医療」とは何か、なぜランダム化比較試験が必要なのか、といった基本を学ぶことを強くお勧めします。「以下の体験談はどうでしょう?」という疑問については、もちろん、「質の高いエビデンスであるとはとうてい言えない」という答えになります。

また、ご呈示の事例は、丸山ワクチンに肯定的な医師は、ゲルソン療法などの根拠に乏しい治療法にも肯定的であることを示しています。ゲルソン療法に「効果はあるという実感を持って」いる医師はいるでしょう。世界レベルでは、丸山ワクチンに肯定的な医師よりも多いでしょう。体験談も山ほどあります。体験談を重視する木原洋美さんは、丸山ワクチンだけでなく、ゲルソン療法をも肯定するのでしょうか。

体験談を根拠とみなすのなら、ホメオパシーや気功や波動療法も肯定できてしまいます。根拠に基づいた医療よりも体験談を優先するとは、そういうことです。


COVID-19後の疲労感に対するドネペジルの有効性について

COVID-19後の疲労感に対するドネペジルの有効性が否定されたランダム化比較試験に、近藤一博教授がかかわっていることは存じています。おそらく、桑満先生もわかっているでしょう。世界中で競争になっていて複数の研究チームが検証するような分野ではないので、日本で臨床研究が行われていたら近藤教授が関わっているに決まっています。それこそ、論文著者を読めばすぐにわかります。

それから、私は『近藤先生本人が「すでに(自分で)行った臨床試験の結果を完全に無視」して、プレジデントオンライン始め、メディアや学会で虚偽の発表をした』とは述べていません。近藤先生本人ではなく、木原洋美さんによるプレジデントオンラインの記事が、臨床試験の結果を完全に無視しているというようなことは述べました。近藤教授が取材時に不正確な発言をした可能性もあれば、取材では正確に説明したのに記事化の段階でライターが誤った可能性もあります(あるいは近藤教授が取材時に不正確な発言をした上で、記事化の段階で輪をかけて誤りが拡大したのかもしれません)。

メディアが取材内容を歪めることは珍しくありませんから、プレジデントオンラインの記事だけから、「近藤先生本人が虚偽の発表をした」とは判断できません。しかし、記事自体には問題があります。専門性を持たず取材対象者の発言を鵜呑みにして提灯持ちの記事を書くだけのライターならともかく、木原洋美氏は「医療ジャーナリスト」を自称しておられます。まともな医療ジャーナリストであれば、仮に近藤教授が不正確な説明をした場合でも、「先生自身が関わられた臨床試験ではドネペジルの有効性は示されていないのでは?どういうことですか」と確認すべきです。確認しましたか?


事後的なサブグループ解析は根拠にならない

木原洋美さんは、おそらく論文は読んでおらず、学会の抄録で記事を書いてしまっています。抄録は十分な査読を経ておらず、重要な情報も欠けています。提灯記事を書くライターならそれでもよいのかもしれませんが、医療ジャーナリストを名乗るのであれば、論文に当たり、内容を批判的に検証すべきです。

『最初の方に「SITH-1抗体陽性患者に関する解析が進行中である」と記されています』と木原洋美さんは書いています。論文には、明確にはそのような記載はありません。(最初のほうではなく)考察にドネペジル投与前に採取した血液サンプルを用いた「ドネペジルが有効と考えられるサブグループを特定するためのバイオマーカー解析が進行中」といった記述はあります。このバイオマーカーの一つがSITH-1抗体でしょう。昨日、


たぶん、層別解析のことをおっしゃると思いますが、これは事後解析ですので、別の集団で再現性を確認するまでは結論できません。学会発表の抄録は査読が緩いので景気のよいことを書けますが、論文ではSPIN(粉飾)とみなされます

と私は書きましたが、予想は当たりました。仮に事後解析でSITH-1抗体陽性患者に限ればドネペジル群とプラセボ群に有意差があったとしても、「SITH-1抗体陽性患者にはドネペジルが効く」とは言えません。これは医師でもご理解していない人はわりといます。

問題はですね、プレジデントオンラインの記事では、近藤教授が「医薬品がダメならサプリメントとしてでもいいので、認知症の診断なしに患者さんが手に入れられるようになんとかできればと思っています」と述べたことになっていることです。仮に、別途ランダム化比較試験で「SITH-1抗体陽性患者にはドネペジルが効く」ことを証明できても、サプリメントはダメでしょ。新型コロナ後の慢性疲労患者全体では、効果が示されなかったんですよ。「SITH-1抗体陽性患者に限って投与を認める」などとしないといけません。近藤教授は「取材内容を歪められただけの研究者」というわけではなさそうな気がしてきました。

再度強調しますが、COVID-19後疲労感に対するドネペジルの効果を検証した二重盲検ランダム化比較試験においては、主要評価項目も副次評価項目も有意差はなかったのです。ドネペジルの件については、あらためてブログ記事を書きます。というか、だいぶ書いたのですが、次々と興味深いことが起きているので後回しになっています。