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過剰診断と「がんもどき」の違い

甲状腺がん検診についての議論を見ていると、過剰診断と近藤誠氏が提唱する「がんもどき」の区別がつきにくいようである。たしかに過剰診断と「がんもどき」は似ている。しかしながら、その背景の考え方は大きく異なる。違いを表にまとめてみた。




標準的な見解と「がんもどき理論」の違い

赤枠が標準的な見解と「がんもどき理論」との決定的な違いである。「がんもどき」部分と「本物のがん」部分が似ているがゆえに間違いやすい*1

近藤誠氏によれば、すべてのがんは、放置しても転移しない「がんもどき」と、発見したときに既に転移している「本物のがん」のどちらかに属する。一方で、標準的な見解では、過剰診断と、発見時に治療介入しても予後が改善しないがん以外に、発見して転移・進行する前に治療介入すれば予後が改善するがんも存在すると考える*2。そのようながんを効率よく発見できる方法がある種類のがんが、がん検診が有効ながんである。


*1:細かいことを言うと「がんもどき」は転移せずに局所で進行し症状を引き起こすものも含まれるので、厳密には過剰診断と「がんもどき」は異なる。ただし、このような細かいことは議論の大勢には影響しない。

*2:細かいことを言うと、「転移・進行する前に治療介入すれば予後が改善するがん」も二種類に分類できる。自覚症状が生じてから治療しても予後が改善する「間に合う」がんと、自覚症状が生じてから治療介入しても予後が改善しない「手遅れ」になるがんである。がん検診が有効なのは後者のみである。予後が改善する、ではなく、予後が改善「しうる」という表現になっているのはそのため。こちらはがん検診の有効性を議論したいのなら理解していなければならない。