NATROMのブログ

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急患を断らない名戸ケ谷病院

救急患者の「全件受け入れ」を表明している病院があるという朝日新聞の報道。


■「急患断らぬ」貫き25年 千葉・柏の病院の医師確保法(朝日)


救急患者の受け入れ拒否が社会問題になる中、「どのような急患も受け入れる」ことを開院以来25年間守り続けている病院が千葉県柏市にある。医師の住宅整備や研修・学会への参加支援など、仕事環境の充実を図ることで医師を十分確保できており、若い研修医の人気も高い。
 柏市の名戸ケ谷(などがや)病院は内科、外科など21科247床、中規模の民間総合病院で、2次救急を担う。ここを目指して年間5千台の救急車が走る。柏市内の救急搬送の4割前後を受け入れているほか、近隣の我孫子、松戸、野田市、さらに埼玉県から運び込まれる患者も少なくない。
 産婦人科はないが、妊婦も断らず、とにかく患者として受け入れる。患者は一般医が診断し、出産の場合は産科がある医療機関に転送するなど専門医の対応が必要ならば連携できる病院へ移す。「管制塔」のような役割もする。


産婦人科がないのに妊婦を断らないというのは、本当だとしたら凄い。私なら、妊婦を診療するなんて怖くてできない。近くに産婦人科医がいないならばしょうがないから診るけれども、近くに産婦人科がある病院があるのなら、まずはそちらに当たれと言う。受け入れ不能の報道に対する感想に、「専門外であっても、ひとまずは受け入れれば良かったのに」という意見がある。他に専門家がいない場合には正しい。しかし、他の病院ですぐ専門家が診れたかもしれないのに、とにかく受け入れた結果、かえって専門家に診せるまで時間がかかってしまうこともある。結果が悪ければ「診れないのが分かっているのに受け入れた。無責任だ」とは批判しないか。

「何を言う。実際に、救急患者を全件受け入れている病院があるではないか」という意見もあろう。しかし、名戸ケ谷病院が本当に、妊婦もまったく断らないかどうかについては疑問がある。2007年9月の毎日新聞に、千葉県柏市で23の医療機関が妊婦の受け入れ不能だったという記事がある。


■妊婦受け入れ拒否:千葉でも5月に 23医療機関で42回(毎日、魚拓)


 千葉県柏市で5月、23歳の妊婦が23の医療機関から救急搬送の受け入れを断られ、救急隊の問い合わせから茨城県内の収容先の病院が見つかるまで約2時間20分かかっていたことが分かった。
 同市消防本部によると、5月21日午前1時9分、女性が「陣痛が激しく耐えきれない」と119番通報、8分後に救急隊が到着した。女性は妊娠41週目でかかりつけの病院がないため、県内外の病院に受け入れ要請の電話をした。しかし、23医療機関で延べ42回断られ、午前3時半過ぎ、24カ所目43回目でようやく見つかり、同3時52分に病院に到着した。
 42件の拒否の理由は、25件が「初診の患者を診ることはできない」で、このほかは「処置中」「医師不在」などだった。同本部は「女性は意識もはっきりして破水もなかったが、病院で無事出産したかは確認していない」としている。


この報道が事実だったとしたら、可能性は2つあると思う。(1)名戸ケ谷病院も急患を断ることがある。(2)そもそも名戸ケ谷病院は妊婦の急患の受け入れ先と救急隊から全く認識されていない。どちらにせよ、「妊婦であっても全件受け入れる。管制塔のような役割もする」というのは不正確であろう。「なるべく全件受け入れる」「妊婦であっても受け入れるよう努力している」とするのが正確ではなかろうか。それを言うなら、都立墨東病院も十分すぎるほど努力していたと思うが。