NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

宋美玄先生の本の紹介

■「ニセ医学」に騙されないためにの帯に推薦文を書いていただいた宋美玄先生について、■コメント欄でご質問があった。


ついでに「メタモル出版から本を出したわけ」より「宋美玄先生推薦!」の方が気になったりしています。私の記憶の限りではNATROMさんはこの方の著書にも主張にも一度も触れたことがないように思いますが、帯で推薦文を書いていて、公式ブログでも本を宣伝しているこの有名人についてどう思われているのか…。

コメント欄にもお返事を少し書いたけれども、改めて宋美玄先生の著書を紹介しよう。推薦文を書いていただいた直接のきっかけは宋美玄先生もメタモル出版から本を出されていることだ。




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■産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで! (専門医ママの本)  宋美玄(著)



主な想定読者は、妊娠している女性あるいはこれから妊娠する予定のある女性であろう。もちろん妊婦の家族が読んでもいい(というか読んでもらいたい)。必要に応じて文献情報はついているが、簡潔にわかりやすく書かれている。「専門医ママ」シリーズでは、各項目が質問形式になっており、数ページの解説に加え、以下のような具合で答えが簡潔にまとめられている。



Q.妊娠に気づかずにやっていたことが不安です  →  A.ほとんどの場合は心配ありませんが、気になる場合は医師に相談しましょう(P26〜)

Q.体重が増えていると叱られました  →  A.母体と赤ちゃんの栄養が不足しないよう、適切な範囲の体重増加はするべきです(P52〜)

Q.できるだけ自然に産みたいのですが  →  A.多くの医師は自然経過に任せますが、安全のためには医療介入が必要なことも(P101〜)


自然分娩にこだわりすぎないほうがよい。「出産において最も大切なことは、赤ちゃんとお母さんの安全を確保することではないでしょうか。帝王切開術も、立派なお産です(P107)」。母乳も無理なくあげられるならそれに越したことはないが、臨機応変に粉ミルクを足してもよい。「お母さんが母乳神話にとらわれすぎて『母乳で育てられないなんて母親失格だ』と暗い顔をしているよりも、笑顔で子育てできることのほうが大切ではないでしょうか(P121)」。妊娠・産後の経過は人それぞれである。自然分娩でなくても、完全母乳育児でなくても、いいんだよ。

また、著者が出産経験者であることもポイントが高い。コラムなどで著者自身の経験にも触れられている。こればかりは男性には真似できない。出産経験者が書いた本や産婦人科医が書いた本は他にもあるが、出産経験がある産婦人科医が書いた本というのは貴重なのではなかろうか。




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別の出版社の本であるが、「NATROMの日記」の読者には、■女のカラダ、悩みの9割は眉唾がおもしろく読めるのではないか。帯には「女性誌にケンカ売ります」とある。女性誌に書かれている「女のカラダ」についての「都市伝説」を斬っていくデバンキング系の著作である。私はニセ科学には詳しい方だと思っていたが、目新しいものもあった。女性誌は普段読まないからなあ。

たとえば、女性がバリバリ仕事をすると男性ホルモンが出て、「オス化」してヒゲが生えたりするというトンデモ説があるのだそうである(P34)。初めて知った。女性誌がオス化を煽る背景には、「女はあんまり働かなくてもいい。女らしく楚々としていろ」といった女性像があるのではないかと、宋先生は推測している。

更年期障害前の体調不良を女性ホルモン減少のせいにする「プチ更年期」「プレ更年期」といった概念も、女性向けメディアがでっち上げた造語だそうだ(P158)。私が調べてみたところ、確かに信頼できる文献に「プチ更年期」「プレ更年期」という言葉は発見できなかった。この言葉の問題点は「あたかも年不相応に衰えているかのような恐怖を煽ったこと」だと宋先生は指摘している。

単なるトンデモ説の誤りの指摘として読んでも面白い本であるが、それだけではない。この本の根底には女性の地位向上や多様な価値観の肯定がある。「女性はバリバリ働いたりせず女らしくしていろ」「結婚して子どもを産むのが女の証である」といった画一的で古い価値観に対するカウンターとなるだろう。