NATROMのブログ

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「医師がすすめる空間除菌」のカラクリ

「クレベリン」という二酸化塩素による据え置き型の空間除菌製剤のテレビCMを見て疑問に思った。このテレビCMは、製薬会社のウェブサイトでも見ることができる。


■広告ギャラリー:テレビCM|CM・特集|大幸薬品株式会社


以下、「」内がテレビCMのセリフで、()内が私のツッコミである。

  • 「子供の免疫力は大人より弱い」(二酸化塩素のような化学物質に対する耐性も子供は大人より弱いかもね)
  • 「二酸化塩素分子が空間中のウイルスや菌を99%除菌」(それってたぶん実験室のデータだけど、実際の使用条件で効果があるかどうかとは別問題だよね)
  • 「医師がすすめる空間除菌」(ちょっと待った。誰がすすめているって?)


こんなもんを勧める医師がそうそういるとは思えないが、メーカーのサイト*1で確認すると、683名の医師に対する「感染症対策として空間(空気)の菌やウイルスを除菌・除去し、空間をきれいな状態に保つこと(空間除菌)が有効だと思うか」というアンケートに内科医が80%以上「有効だと思う」と回答したという。「医師がすすめる空間除菌」というフレーズ自体は嘘ではない。

しかしアンケート結果には続きがあって、「うち、空間除菌において、60%以上の医師が二酸化塩素は有効だと回答しました」とある。つまり、空間除菌が有効だと思う医師の40%近くが「二酸化塩素は有効ではない」と考えているわけである。おそらくは空気清浄機などの他の手段による空間除菌が有効だと考えているのだろう。

さらに問題なのは、メーカーが推奨する使い方と、アンケート対象の医師が想定する使い方には、おそらくは大きな隔たりがあることだ。メーカーは家庭での空間除菌製剤の使用をすすめている。「こんな所におすすめ」として寝室やリビングや子供部屋が挙げられている。





製薬会社がすすめる使い方


一方で「感染症対策として空間除菌が有効だと思うか」と聞かれた医師がまず想定するのは、おそらくは病院・診療所における待合室や診察室であろう。待合室には風邪やインフルエンザの患者さんがたくさんやってくる。なんらかの手段で待合室の空気中のウイルスや細菌を除去できれば、感染症対策として有効かもしれないと考える医師がいるのはわかる*2

家庭においてはどうだろう。寝室や子供部屋などのごく限られた人しかいない空間を除菌したとして、感染症対策として有効なのか。きわめて疑問である。というか、正直、意味がわからない。寝室を空間除菌したとして、季節性インフルエンザのようなヒト-ヒト感染する感染症に有効だとはとても思えない。

安全性についても考慮が必要だ。空間除菌製剤から出る二酸化塩素に曝露する時間は、待合室でなら普通は1時間やそこらで、それも受診した日だけである。一方で寝室で使うとなると数時間の曝露が毎日続くのだ。医療機関よりも家庭で使うほうがより高い安全性が要求される。

医師に対するアンケートで、「感染症対策として空間除菌は有効だと思うか」だけでなく、「感染症対策として二酸化塩素による据え置き型の空間除菌製剤の家庭での使用は有効だと思うか」と聞いていたら、また違った結果になっていただろう。私は有効だとは思わない。有効だと思う医師がいたら、どのような感染症に対する対策になると想定しているのか聞いてみたい。潜在的なリスクを否定できないため、消臭などの他のメリットでもない限り、家庭での二酸化塩素による空間除菌製剤の使用を私は勧めない。


*1:URL:http://www.seirogan.co.jp/news/20131111大幸薬品クレベリン新CM発表web.pdf

*2:本当に有効かどうかを確かめるには臨床試験が必要である。職場や学校において、据え置き型の二酸化塩素放出薬がインフルエンザ様疾患の発生や欠席率を減らすという研究はある。無作為化されていないなど、研究の質は高くない