NATROMのブログ

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日本の薬の使用量はケタ違いなのか?


「日本の薬の使用量はケタ違い」なのだそうだ。本当かな?日本の総医療費は諸外国と比較して多くはないことは知っていたけれども、薬の使用量についてはそういえば知らなかったので調べてみた。だいたいこの手の統計はOECD(経済協力開発機構)がまとめている。紹介しよう。





■Health at a Glance 2011(PDFファイル)より引用


2009年(または近傍の年)の統計。左が1人当たりの、右がGDPに占める薬剤に対する支出を示す。1人当たりの薬剤費支出のトップはアメリカ合衆国。まあだいたい予想の範囲内。2位以下がカナダ、ギリシャ、アイルランド、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリアときて日本は第9位。国ごとに統計の取り方が若干違っているので、細かい順位にはそれほど意味はないだろう。ただ、「日本の薬の使用量はケタ違い」ってこたなさそうってのはわかる*1

日本の1人あたりの薬剤費支出は、OECDの平均以上なんだ。へえ。総医療費は平均以下なのに。いったいどこにしわ寄せがいっているんだろう。ギリシャが意外と高順位なのが気になる。そんなにお金を使って大丈夫なのか。もしかしたら大丈夫じゃなくなった原因の一つなのか。

さすがに「医猟マフィアがビジネスのために毒を病人に売りつけている」なんて話がトンデモさんの戯言であるのはほとんどの人が理解できるだろうが、もしかしたら、日本の薬剤費支出が思ったより少ないと感じた読者もいるかもしれない。日本の医師が無駄な処方をしがちだという印象を持つ人は少なくないと思われる。その印象はある程度正しい。

昔は薬価差益といって、薬を出せば出すほど医師は儲かっていた。その時代のなごりなのか、やたらと多く薬を出す医師がいるのは確かである。高齢の開業医にそういう傾向が強いように思う。ただ、とっくに薬価差益の仕組みはなくなっており、今では別に薬を処方しても医師は儲からない。むしろ、薬を欲しがる患者さんに対し薬は不要である旨を説明することが多い。


*1:厳密にはこの統計が示すのは支出であって使用量ではないので、日本での薬の値段がケタ違いに安いと仮定すれば、支出は他国と変わらなくても使用量はケタ違いに多いと言える。実際には日本での薬の値段は安くなく、むしろ高いのだけどね