NATROMのブログ

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武田鉄矢氏がラジオでソマチットに言及した

11月14日ごろから急に「ソマチット」で検索してくるアクセスが増えた。ソマチットとは、赤血球よりも小さい謎の不死生命体のことである。詳しくは、■謎の微小生命体ソマチット(ソマチッド)を参照のこと。要するに、ちょっとアレな自称研究者が、自作のスーパー顕微鏡で見えた何かを、未知の生命体と勘違いしてしまったというところ。日本でも紹介者はいるにはいるが、ホメオパシーなどと比べるとマイナーな部類であろう。

急にアクセスが増えた理由はすぐに判明した。タレントの武田鉄矢氏がラジオでソマチットについて言及したらしい。いまのところ(2011年11月17日)は、インターネットラジオで聞ける。たぶん週替わりだから、聞くなら今のうち。


■BBQR 文化放送インターネットラジオ


11/14更新分の「武田鉄矢・今朝の三枚おろし」の、22分21秒ぐらいから。相方の女性は水谷加奈さん。水谷さんのあいづちが、本当に感心しているのか、それともリアクションに困っているのか、注意深く聞いてみたら面白いと思うよ。この番組は、武田鉄矢氏が読んだ本を紹介していく構成のようである。ソマチットを紹介するまでは、武田徹著「原発報道とメディア」 (講談社現代新書)について、数回にわたって紹介していた。こちらはまともそうな本なのにな。

面白かったところを文字起こししてみた。



武田「これはね、ちょっと変わった物質の話なんだよ」


水谷「ソマチット?」


武田「地球を再生する不死の生命体。福村一郎さん、増川いづみさんかな…一部寄稿と書いてあります。高かった。話はつかみで、こんなところから話していきましょう。2011年の初めの月だったか…」


つかみの話は、NASAが「ヒ素を利用して生息する微生物」を発表した話。地球外生命体に関して発表するというふれこみであったが、緑色の小人ではなくバクテリアの話だったことにがっかりする武田鉄矢氏。



(24分05秒〜)

武田「バクテリアごときいいじゃないか。と、そう思ってツタヤさんに珍しく行ったときに、ふっと目があった一冊が、この本だったの。地球を再生する不死の生命体、ソマチット。1945年、フランス、生物学者、ガストン・ネサン博士が高度な解像度顕微鏡で血液中にナノ単位、赤血球の直径100分の1程度の生命体を人間の血液の中に見つけた。


水谷「ほうお」


武田「白血球よりも体内では先輩で、DNAの先駆体つまりDNAのお父さんかお母さんになるやつではないかと、不思議な物体なんだよ。どうも生命のはじまりに関与しているようで、観察をしますと、病気、ストレス、ネガティブな気持ちによって活動を止めて殻をつくって眠ってしまうという生命体。だから、かなさんの体の中にいるんだよ。」


水谷「必ずいるんですか?」


武田「いるんです。これが、いわく、これが、宇宙から来たじゃねーかと。宇宙人がこう円盤から降りてくるんじゃなくて、もう体の中に住んでいる」


水谷「いやだー。はあ」


武田「で、どうやら免疫器官のようなところに関してはこのソマチットが人体を支配している可能性があるぞっていう研究発表があったんです」




cover

■ソマチット―地球を再生する不死の生命体 福村一郎 (著)


武田鉄矢氏が手に入れたと言う本はこれ。なお、わりとどうでもいいことだが、日本語表記をソマチッにするか、ソマチッにするか、派閥がある模様。ホメオパシー支持者にも、日本ホメオパシー医学協会と、日本ホメオパシー振興会があるようなものらしい。

武田鉄矢氏が言及したのはソマチット派。なので、このエントリーではソマチットで統一する。ソマチットはきわめて小さく、DNAの先駆体で、人体の中にいるのだ。それどころか、「免疫器官のようなところに関してはこのソマチットが人体を支配している可能性がある」らしいのだ。いやだー。それにしても、どこで研究発表があったんだろう?



(26分25秒〜)

武田「だいたい38億年以前に地球に降りたらしい。彼ら(ソマチット)が求めたものは、水素、炭素、窒素、そしてマイナスの電子を帯びたH2O、水。海ができて地上で火山活動が活発になる、そうすると雨が降り地下と地表で水が激しくメビウス運動を繰り返す。」


水谷「ほう」


武田「そうすると8の字に水って回るとマイナス電荷を帯びるんですってね。ここから生命誕生のドラマがスタートした、我々生き物がね」


どのような方法で38億年以前に地球に降りたことがわかったのだろう。本を読めばわかるのかもしれない。たぶん、38億年前の石を粉にして水に漬けたら、ブラウン運動がソマチットが動いているところが観察されたのであろう。メビウス運動って用語もいい味を出してくる。



(27分35秒〜)

武田「俺、ものすごく思い当ったんだ。人間の体の中にこいつが潜り込んでいるとするでしょう。人間の体の中で働いているらしいんだよ。すごくいいことのために」


水谷「いいことをしているんですね、はい」


武田「いいことをさせるための条件があるんだ。それはね、やっぱりメビウス曲線なんだ。これをね、ちょっと覚えておいてくれる。来週これを少し続けます」


というわけで来週に続いた。引用した部分だけでもわかると思うが、武田鉄矢氏は「こんな愉快なことを書いてある本がある」って感じではなく、本気で信じているフシがある。医師でも大学の先生でもないことだし、何を信じていてもかまわない。ただ、マジに受けとってしまう視聴者がいると、いささかまずいかもしれない。

ソマチット単体だと夢のある面白話で済むが、この手の話で多くあるように、代替医療と結びついている。ソマチットを発見したガストン・ネサン氏は、「714-X」なる「免疫強化剤」を開発した。自称では「如何なる種類の癌に対しても投与開始後三週間で、完治率75%の治癒率を示した」としているが、実際には何らかの効果があるという証拠は存在しない。また、「不死の生命体!≪ソマチット含有食品≫真空カルシウム」「ソマチット米 玄米 1.8kg」「ソマチットアイ 光風エネルギー入り」なる商品すらある。




「(不死の生命体ソマチット含有食品)真空カルシウム」
他のサイトでは、まったく同じものが、ソマチットに言及されずに売られている。
もともとはソマチットに無関係な売れ残り商品に適当な付加価値付けて売ってんじゃね?




ソマチット米 玄米 1.8kg

ソマチットアイ 光風エネルギー入り

「もろくなった骨の密度と形を正常に戻す働きがあります」はアウトだろう。


ソマチットは、詐欺師が科学知識に疎い「カモ」を騙す道具となっているのだ。これらの商品は、おそらくは大きな害はないであろうが、何が含まれているのか不明であり、潜在的なリスクはある。また、効果は証明されておらず、よしんば副作用などがないとしても、買った人は経済的には不利益を被る。もっとも怖いのは、この手の話は現代医学否定と容易に結びつくことである。武田氏の話はまだ続くそうであるが、視聴者がソマチットを信じてしまわないような配慮がなされることを願う。