NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

免疫細胞療法を行っている会社のブログがすごかった


なかなかユニークな主張を行うブログを発見したので紹介したい。まずは、インフルエンザ予防に手洗いは感染防止に役に立たないどころか、逆効果という主張。


■がん治療と免疫 : 抗ウイルス学会に参加して - livedoor Blog(ブログ)*1


うがい、手洗い、も根拠はありません。
折角、指先にはウイルスを分解する強力な
RNA分解酵素が沢山分泌されているのに、
何でわざわざ洗い流すんでしょうね。
ウイルスを分解したければ、指先で触りまくればいいのです。
決して、手を洗わずに。


うがいやマスクの効果については議論があることは知っているが、私の知る限りでは、「手洗いに根拠なし」というのは初めて聞いた。日本に限らず、CDCやWHOなどの公的機関も手洗いを推奨している。もちろん、手洗いだけでインフルエンザを予防できるわけではなく、ワクチンなどの他の手段も推奨されている。しかし、ブログ「がん治療と免疫」では、ワクチンにも否定的なのだ。まずは、BCGワクチンについて。


■がん治療と免疫 : ポリオ騒動(5)常在ウイルスにワクチン??? - livedoor Blog(ブログ)


ワクチンをうってはいけない弱い人にまで
BCG、結核ワクチンを打ってしまう日本では、
打ちたい人だけ、自由に打てばいい、他の
先進諸外国に比べて、10倍以上も結核の発症が
多い事実は、ワクチンによって、
疾病が誘導されていることを
如実に示しています。 


BCGワクチンを接種する目的は、成人の結核発症の抑制ではなく、小児の結核性髄膜炎などの予防である*2。国によって制度は異なるが、BCGワクチン接種が推奨されている国ほど、結核の発症が多い傾向があるのは事実であろう。しかし、「ワクチンによって疾病が誘導されていることを示す」は誤りである。因果関係が逆で、結核の発症が多いため、小児を守るためにBCGワクチン接種が推奨されているのだ


■ポリオ騒動(8) がん治療と免疫 - livedoor Blog(ブログ)


日本は、GHQのご指導に基き、
ワクチンは正しい、という「常識」が蔓延し
国民の殆ど全員が疑いもせずに
ワクチン投与を受けてしまってきた
世界で唯一の非常に珍しい国です。

小さな子供に、次々とワクチンをうちますが、
西洋医学では、どのように考えるのでしょうか。


BCGワクチンだけならともかく、ワクチン全般に否定的。「がん治療と免疫」のブログ主は、日本がワクチン後進国とみなされていることをご存じなのだろうか。また、よく読んだらわかってくるのであるが、このブログでいう「西洋医学」は一般的に考えられている西洋医学と違うようだ。


■ポリオ騒動(8) がん治療と免疫 - livedoor Blog(ブログ)


さて、まだ、子供が自力で体内の余計なものを追い出す力が
十分につく前に、ワクチンを投与するわけですね。
急性症状=病気と考える「学派」からすれば、急性症状を
防ぐために、先にワクチンをうたなければ、と考えるわけです。


ところが、免疫力、不十分の子供にワクチンを投与すると、
子供の免疫は、霍乱されてしまいます。 余計なものを出す能力が
低いのに、余計なものを大量に入れられたのです。
抗体が満足にできない場合もありますが、できたらできたで、
そちらの方が大変です。 抗体はどこへいくのでしょう。
ワクチン抗原に結合した中和抗体は、行き場がないのです。
まだ、体の外へ出す能力が低い子供にワクチンをうってしまうと、
抗原・抗体複合体を効率よく体の外に出せないのです。


抗原・抗体複合体は普通に食細胞に貪食されると思うけどな。仮に「抗原・抗体複合体を効率よく体の外に出せない」のが問題だとしたら、ウイルスに自然感染して抗体ができた場合も同じであろうに。



やむなく、無用の抗原・抗体複合体を、体の一部に集めたり、
溜めたりします。 肺の粘膜に溜まってしまうと喘息になります。
間接に取り込まれてしまうと、中々、排出されず、将来、リューマチの
原因になったりします。 ニワトリの卵で増殖させたウイルスを用いる
ワクチンの場合、当然、ニワトリの卵に過剰反応する体質になって
しまい、アトピーになっていきます。 子供のアトピーが異常に多く、
しかもその多くが卵に反応するのは何故でしょう?

排出力の弱い子供に卵の成分を無理矢理投与し、
しかもその際、免疫系の作動を誘引するよう、強力なアジュバント
(免疫刺激物質、要するに毒)を加えているのです。
水酸化アルミなんか加えられたら、長期間、体内に留まり続けます。


こうして、不要の抗原抗体複合体を集める最終手段。

それは、寿命をなくし、いつまでも必要に応じて増え続ける細胞です。
死んでしまっては、折角集めた不要の物が、再び飛び散るので、とりあえず
細胞内に取り込むだけ取り込んで、じっと死なずにいるのです。
NK細胞に殺され、小さな泡の集団となってから、マクロファージに
貪食されるのは構わないのです。マクロファージの死骸とともに
集めた不要の物も、体外へ排出されますから。 

余計なものを集め、体を守る仕組み。
それが、「がん細胞」と呼ばれるものです。


私の知る限りでは、ワクチンが喘息やアトピー性皮膚炎や癌の原因になるとする明確な証拠はない。アレルギーが増えた理由を説明する仮説の一つとして、幼少期の病原体への曝露が減ったためとする衛生仮説あるが、その証拠の一つとして、「予防接種を経験した子どもにアレルギーが少ないこと」が挙げられている*3。実験的にもBCGがアレルギーを抑制するという話もある*4。同様に、ワクチンががんの原因になるとする明確な証拠もない。B型肝炎ワクチンなどの、癌を予防しうるワクチンならある。

ブログ「がん治療と免疫」の特徴は「ワクチン全否定」であることだ。「インフルエンザワクチンの効果は乏しい」「BCGは費用対効果の観点から疑問だ」などの個別のワクチン否定ならともかく、ワクチン全否定は完全にトンデモだ。ワクチンを全否定するような発言は、まともな医療従事者ならしないであろうが、たとえば、日本ホメオパシー医学協会の由井寅子会長は同様の発言をしている*5。実際、「がん治療と免疫」はホメオパシーに親和性が高い。


■がん治療と免疫 : 学術会議の見解 - livedoor Blog(ブログ)


実は、ホメオパシーを否定する、ということは、MRIを否定する
ことになります。学術会議の先生方は、最先端の画像診断技術の中身を
ご存知ないのかもしれませんが、MRIは、体内のごく一部の物質の中から
全身の情報を取り出して、イメージ画像にしているのです。
そのごく一部の物質こそ、正に、ホメオパシーが、「悪い物の情報を
記録している」としているものと同じなのです。


「現代科学において、水に情報が転写されるというのは、現実に現象として知られて」いるのだそうだ*6。根拠は、同じ社内の技術者から聞いた話。映画「攻殻機動隊」や「マトリックス」三部作の方が「あの手の映画の方が実は、真実なのである、というのが、最先端科学なのです。一般常識で理解することは不可能な話です」ともある*7

長々と引用したが、まあこのくらいのブログは珍しくない。ブログ「がん治療と免疫」をわざわざ取り上げた理由は、このブログが一般の人のブログではないからである。ブログの右上に「リンパ球バンク株式会社」とある。リンパ球バンク株式会社は、ANK(Amplified Natural Killer)療法という免疫細胞療法を行っている会社である。リンパ球バンク株式会社のページ*8からもブログ「がん治療と免疫」へのリンクが張ってある。リンパ球バンク株式会社の公式ブログのようである。

がんに対する免疫細胞療法はいまだ標準治療とは言えないものの、将来、標準医療になる可能性はある。臨床試験が行われているものもあれば、自費診療のクリニックで高額な対価をとって行われているものもある。「標準的な」免疫細胞療法というものは存在しないので、玉石混交というのが実情だ。リンパ球バンク株式会社の推奨するANK療法は、Tリンパ球や樹状細胞ではなく、NK細胞を活性化するというのがポイントのようだ。

ANK療法はもしかしたら効果があるかもしれない。しかし、"Amplified Natural Killer"でPubmedを検索しても該当する論文を発見できなかった。リンパ球バンク株式会社の「治療実績」のページ*9には画像付きの症例報告例も紹介されているが、別にANK療法で腫瘍が縮小したわけではなく、再発抑制例であった。肝移植後の(おそらくは肝細胞癌の)「再発後にANK療法を1クール適用したケース」では、「9名中、2名は進行が止まる、もしくは寛解し予後良好」「9名中、7名は、症状が進行、内、6名は死亡」であったそうだ。ANK療法による延命効果はおろか、腫瘍縮小例があったかどうかすらわからない。この程度のデータしかないのに、いったいなぜ


■がん免疫療法|NK細胞によるがん治療(癌治療)|ANK免疫細胞療法


他の免疫(細胞)療法は、がんを攻撃する力が弱く、標準治療と併用することが大前提で、延命効果やQOL改善が治療の目的です。その点、ANK療法は治療強度が強く、あくまで「免疫が、がん治療の主役」という考え方に立ち、がんの治癒(※)を目指すものです


などと自信たっぷりなのか理解に苦しむ。無作為化試験が困難という理由で治療効果の証明に消極的であるが、本当に効果があるのなら、印象的な症例報告ぐらいできそうなものなのに。なお、「ANK療法を受けられた方の過半数は、誠に残念ながら、亡くなっておられます」とのことだ。また、リンパ球バンク株式会社のサイトは、「ANK療法以外の細胞免疫療法がなぜいまいち効果がないのか」を知るための参考にはなる。ワクチンを否定していたのも、がんワクチンが潜在的な商売敵だからではないか。

賛否両論あるだろうが、予後不良の病態に陥った患者さんの選択肢として免疫細胞療法を提供する施設があってもよいと私は思う。私が切除不能の癌に罹ったら、できるだけのことをしようとするかもしれない。ただ、私なら、免疫細胞療法を選ぶにしても、より標準医療に近いもの、臨床試験がなされているものを選ぶ。効果を証明するのに積極的で、標準医療についても理解が深く、「ホメオパシーのような荒唐無稽なものと一緒にするな」と断言できる医師を選ぶ。「手洗いに感染抑制効果がない。ワクチンによる免疫撹乱はがんの成長を促す。水は情報を記憶しておりホメオパシーは荒唐無稽ではない」とお考えの方は、リンパ球バンク株式会社のANK療法を選ぶといいだろう。


*1:URL:http://ank-therapy.net/archives/888343.html

*2:URL:http://www.who.int/immunization_monitoring/diseases/tuberculosis/en/

*3:■衛生仮説と運動―運動はアレルギーを抑制できるのか―、原著論文はAaby P et al., Early BCG vaccination and reduction in atopy in Guinea-Bissau., Clin Exp Allergy. 2000 May;30(5):644-50.

*4:■結核菌ワクチン「BCG」がアレルギーを抑制する機構を解明 | 独立行政法人 理化学研究所プレスリリース

*5:URL:http://jphma.org/topics/topics_47_yui_letter.html

*6:URL:http://ank-therapy.net/archives/1296418.html

*7:URL:http://ank-therapy.net/archives/1296418.html

*8:URL:http://www.lymphocyte-bank.co.jp/

*9:URL:http://www.lymphocyte-bank.co.jp/jisseki.html