NATROMのブログ

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ハーネマンアカデミー学長の永松昌泰氏は断薬の危険性について十分に説明しているのか?

日本ホメオパシー医学協会のホメオパスでもある助産師が、新生児に対しビタミンKシロップを与えず、新生児がビタミンK欠乏性出血症によって死亡した「ビタミンK不投与事件」はいまだ記憶に新しい。日本ホメオパシー医学協会以外にも、ホメオパシー団体はいくつかあり、永松昌泰氏が代表を務める日本ホメオパシー振興会は、以下に引用するような見解を出した。


■<7/31、8/5付 朝日新聞に掲載されたホメオパシー関連の記事について>  日本ホメオパシー振興会


今回の事件が、あたかも「ホメオパシーそのもの」によって起こったことのように報じられています。前回の見解でも述べましたように、VK2シロップの代替として「ホメオパシーレメディーVK2」なるものを投与すること自体、「本来のホメオパシー」ではありません。日本ホメオパシー振興会が普及しております「本来のホメオパシー」においては、そのような無意味かつ危険な行為はありえないことです。


要するに、日本ホメオパシー振興会による「本来のホメオパシー」であれば、ビタミンK不投与事件のようなことは起こらないと言いたいらしい。しかしながら、日本ホメオパシー振興会の代表であり、「真のホメオパスを養成」するというハーネマンアカデミーの学長でもある永松昌泰氏のブログを読むと、いつなんどき、ビタミンK不投与事件と同じことが起こってもおかしくないことがわかる。


■ホメオパシーの素晴らしさ (永松学長のひとりごと)
■ホメオパシーの素晴らしさ (2) (永松学長のひとりごと)


詳しくはリンク先を読んでいただくとして、かいつまんで言うと、抗てんかん薬を処方された子を持つ母親から、「何とか薬をのまない方法はないか」と相談をされ、レメディーを摂ってもらったところ、数分後に速くも劇的改善がみられただけでなく、半年以上てんかん発作が起こらず、「癲癇波が消えている。もうこれならば、薬は飲まなくて良いでしょう。それにしても、不思議だ」と医師に言われた、とのことである。話はこれだけで終わらない。



実は、薬は一度も摂っていないのです。
最初に私とお会いしてから、
そのお子さんの状態が、あまりにも良くなったので、
お母さんの「独断」で、
薬はあげなかったのです。

ですから、その医師は、
こんなにこの薬が効くなんて! と思ったようです。


ともかく、良かったです。


■断薬の危険とホメオパシーの危険|てんかん(癲癇)と生きるで指摘されているが、「文中で医師の言葉とされているものは捏造されたものか、大いなる聞き間違いである可能性が高いと言える」。てんかん発作がたったの半年しか起こらなかっただけで、しかも減薬ではなくいきなり「薬は飲まなくて良い」と判断されることは通常はないからである。加えて言うならば、通常は、抗てんかん薬は薬物血中濃度をモニターしながら使うので、母親が薬をあげなかったことを医師がまったく気付かないのは不自然である。だが、このエントリーの本題は体験談の不正確さではない。この話が正確であったとしても、大きな問題がある。

言うまでもないが、てんかんの薬を自己判断で中止することは危険である。てんかん発作が起きなかったのは単なる幸運であって、もしかしたら不幸な結果に終わっていたかもしれないのである。抗てんかん薬の断薬の危険性について十分に理解している人から見たら、「ともかく、良かったです」で済まされるような話ではない。銃の危険性を理解している人が、ロシアンルーレットをわが子に向けて打ち、弾が出なかった話を「ともかく、良かったです」と書くであろうか?永松氏は断薬の危険性について、一言も触れていない。同じような子を持つ母親が、永松氏のブログを読んで、自己判断で抗てんかん薬を中止するかもしれないとは考えなかったのであろうか?

現在(2011年6月6日)は、永松氏のブログの該当記事には、賞賛のコメントしか付いていない。しかし、多くのコメントが削除された結果である。その一部は、■ホメオパシーが素晴らしいわけが無い|まぶたの匠・湘南美容外科 Dr. GO のBlogで読むことができる。私のコメントと、永松氏の回答を引用しよう。


こんにちは。このエントリーを読んで、たくさんの疑問が湧きましたが、あまりたくさん質問をしても御迷惑でしょうから、ひとつに絞ります。

・永松さんは、抗てんかん薬に限らず、医師から処方された薬の断薬の危険性について十分に説明しているのでしょうか?
投稿者: NATROM | 2011年06月03日 13:26


NATROMさま



初めまして。あなたがNATROMさんなのですね。

いらっしゃるのを楽しみにしておりました。
これから、末長くよろしくお願いします。



たくさん疑問が湧いてこられたとのことですね。

>・永松さんは、抗てんかん薬に限らず、医師から処方された薬の断薬の危険性について十分に説明しているのでしょうか?



なかなか巧みな導入の仕方ですね。



この件については、
今まで本文中に何度か書いたことがありますし、

4月中旬には中川さんとのやりとりの中でも書きました。

http://www.hahnemann-academy.com/blog/2011/04/post_287.html#comments

私は、医師の投薬が本当に適切であることを、切望しています。

医師の言うことに従っていさえいればそれが患者さんの最大利益になる、ということが本当に実現するならば、こんな幸せなことはありません。

それが本来の医療のあるべき姿なのですから。

ただ、本来の医療のあり方と、

現実に起こってしまっていることとの乖離は、

残念ながら非常に大きいものがあると思っています。



いろいろと書きたいこともありますが、

おそらくは長いお付き合いになるでしょうから、

今日はこれくらいにしておきます。


永松氏の回答を受けて、私の2回目のコメント。おそらく、このコメントは公開されなかった。



こんにちは。ご返事ありがとうございました、と書こうと思ったのですが、良く見たら、
 
・永松さんは、抗てんかん薬に限らず、医師から処方された薬の断薬の危険性について十分に説明しているのでしょうか?
 
という質問に明確なご返事はいただけないようですね。適切でない医師の投薬も中にはあるにせよ、どの症例がそうなのか、ホメオパスは判断する能力があるのでしょうか。「基本スタンスとして、何も変えないことを指導している」として、それにも関わらず、
 
・お母さんの「独断」で、薬はあげなかったのです
・薬を止めただけで治るケースが後を絶たない
・勝手にやめてしまう人が続出する
・そういう例は、いくらでもあります
 
ということは、指導にきわめて大きな問題があると、考えざるを得ません。「何も変えないことを指導している」のではなく、実質的に、薬を止める方向への誘導をしているとしか思えません。
 
ホメオパシーに限らず、代替医療に好意的な人たちの中で、現代医学による治療を中断したとたん良くなった、と主張されるケースを散見します。中には、不適切な治療がなされていた、というケースもあるでしょう。しかしながら、不適切な治療がなされていなくても、「治療を中断したとたん良くなった」と誤認しうることもいくらでもあります。誤認の可能性についてどのように考えるのか、ご教示ください。
 
それから、私には、永松さんの主張は、ビタミンKシロップを与えなかった助産師と同じに見えます。
 
・お母さんの「独断」で、ビタミンK2シロップはあげなかったのです
・ビタミンKシロップの代わりにレメディを与えて問題なかった例は、いくらでもあります。
 
どこが違うのでしょう?断薬による犠牲者が出たとき、由井寅子氏と同じように、永松さんも、犠牲者の「自己責任だ」として、責任を回避するのでしょうか?


永松氏は、その後、ブログに、「「正しくない質問」には、シンプルにはお答えできません」と書いている*1。私の質問は正しくなく、未熟で、真摯な態度からの質問ではなく、意味がない表面的なところだけの議論をしようとしている、と言いたいようだ。永松氏のブログしか読んでいない人は、私が質問したコメントは削除されているため、「正しくない質問」だったのか、あるいは、痛いところを付かれたため永松氏が答えることができず逃げただけなのか、判断できないだろう。永松氏が削除した私の質問は以下である。「正しくない質問」なのかどうか、読者がそれぞれ判断していただきたい。


・永松さんは、抗てんかん薬に限らず、医師から処方された薬の断薬の危険性について十分に説明しているのでしょうか?