NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

新ジャンル?アニマルコミュニケーション

ペットに対するホメオパシーが流行っているようだ。■波動測定器の有効性を検証した論文を読んでみたでは、「動物の身体,感情,精神の状態を推定する」機械をホメオパスが利用していることを紹介した。代替医療ビジネスにおいて、人間を相手にするよりもペットを相手にしたほうが、法律違反や賠償金などのリスクが少ないのかもしれない。あるいは動物の医療では標準医療にも保険が効かない分、代替医療でも競争力を持つのかもしれない。顧客の数は少ないが、それでも喜んで代替療法に対価を支払う飼い主はいるようだ。

最近知ったのが、「アニマルコミュニケーション」という分野。人間相手の医療でも、精神科医とは別にカウンセラーの資格がある。「アニマルコミュニケーター」も似たようなものかと思ったけれども、どうも様子がおかしい。「動物たちの心の声を聞き、人と動物とのより良い関係と幸せなコミュニケーションを伝えるために設立されました」という日本アニマルコミュニケーション協会(JACA)のサイトより引用する。


■アニマルコミュニケーションで人と動物とのより良い関係を築きます | アニマルコミュニケーションカレッジ


動物たちも、私たちと同じように、悩み、喜び、そして様々な思いをいだいて生きています。その彼らの愛情とひたむきな心を理解したいという願いから、アニマルコミュニケーションは誕生しました。
彼らの言葉にならない心の声を、行動学や観察によって読み解き、さらにはテレパシーや直感、オーラリーディングによって感じ取ることで、動物たちの本当の心が見えてきます。共に地球上に暮らすものとして、心と心で語り合えたとき、私たちは本当の意味での純粋なコミュニケーションを体験できるのです。人と動物という垣根をこえて互いに理解し合うこと。
それがアニマルコミュニケーションです。


テレパシー?オーラリーディング?ちなみに、オーラリーディングとはこういうもの。




■アニマルカウンセリングで大切な動物とあなたの心を繋ぎます | アニマルコミュニケーションカレッジ より引用


他にもアニマル過去世リーディングというものもある。科学を装っていないのでニセ科学とは言えず、スピリチュアル系に分類されるのであろう。それにしても、お金がないため必要な治療が受けられない人もいる一方で、アニマルコミュニケーションに15000円とか63000円とか出してもらえるペットがいると思うと微妙な気持ちになる。ホメオパシーとは当然のように連鎖している。たとえば、レメディ選択のためアニマルコミュニケーターに依頼があった例。


■猫ピカイアのチャネリング・アニコミ日記 ホメオパシーを選ぶ為の猫への質問*1


ホメオパシー治療をうけている猫ちゃんの飼い主さんから

ホメオパシーを選択するために猫に必要な質問をして欲しいと
依頼がありました。

そこで
ホメオパスさんが、猫に聞きたい質問を、知らせて下さいと頼みました。

私が勝手に質問するより良いだろうと思いました。

ホメオパスさんの質問はそんなに多くなかったですが

「なぜ病気になったか?」このような質問もありました。

これが分かったら、苦労が無いですわね〜
人間だって自分が病気になった原因って分からないから。


ホメオパシーはレメディ選択の際の対話がカウンセリングとして機能しているので(というか、ただの砂糖玉であるレメディは単独ではなんら効果はない)、ホメオパスが猫に質問したくなる気持ちもわからないでもない。ただ、猫に対してカウンセリングの効果があるかどうかは、はなはだ疑問ではあるが。また、「波動測定器」という一見科学的な機械を使う方法と、「チャネリング」という方法。一見、全然違うように見えて、実のところは似たようなものであるのも興味深い。次は、アニマルコミュニケーター本人がホメオパスである例。海外の動画のナレーションからの孫引き。


■[ リンダ・ルースルート さん : アニコミュ海外動画] by SKYE CAIT*2


|幸福な視聴者の皆様、
|『動物の世界 地球の仲間』(Animal World)へ ようこそ。
|本日は、オランダの同種療法(ホメオパシー)を行う獣医で、
|テレパシーで動物と交信する、
|リンダ・ルースルート医師を取り上げます。

|医師は幼少時から動物達に強い親近感を持っていました。
|私達の仲間の動物に深い関心を持ち、
|大学で学位を修める間、動物行動学を研究しました。
|また、天使のエネルギーを通し他者を癒す、
|『天使エネルギー療法』の訓練を受け、
|それを使用した動物の傷や病気を癒す、
|総合エネルギー療法の上級指導者の資格も持っています。
|加えてリンダさんは、
|天使との接触を通し動物と交信できる能力があるので、
|他のアニマル・テレパシー・コミュニケーター交信者とは、
|区別されます。
|この特殊な能力のため、ルースルート医師は
|テレビやラジオ番組、新聞やインターネット記事で取り上げられ、
|オランダのメディアから多くの注目を浴びています。


いろいろとトンデモな主張をしているホメオパシー・ジャパンですら、さすがに天使エネルギー療法などとは言わないと思う。しかし、天使エネルギーなどと聞いて、「え?いくらなんでもおかしくね?」と思わない人も一定数いるのだ。自分以外の誰かの方がペットと理解し合えると考える飼い主だけでなく、「アニマルコミュニケーターになりたい」と思う人も「顧客」であるのは、ホメオパシーと同じ構図。動物を助けたければ獣医を目指すべきだ。私が猫なら、テレパシーやら過去世リーディングやら天使エネルギーやらを信じている科学的思考能力に欠けた人間に自分の治療方針を決定して欲しくない。

テレパシーだろうとチャネリングであろうと、本当に動物とコミュニケーションがとれるのなら、科学的に検証可能である。たとえば、ペットだけが知っていて、アニマルコミュニケーターが知らない情報について、アニマルコミュニケーターが正答できるか、など。しかし、アニマルコミュニケーターは科学的な検証を行う気などないであろう。


*1:URL:http://hikarioak.blog38.fc2.com/blog-entry-27.html

*2:URL:http://skyecait.blog62.fc2.com/blog-entry-123.html。ただし、元記事は「ダークサイドの人たちがネガティブな意味で、この記事にリンクしている事が分かりましたので」内容が変更になったようです。変更前の記事はこちら