NATROMのブログ

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マヤズムについて簡単に調べてみた

■発達障害と梅毒マヤズム。(ホツマツタヱ。)でhotsumaさんに「どうやら呪いのような超エネルギーらしい」と言われていた梅毒マヤズム。マヤズム(Miasm)という概念について、ホメオパシージャパンのページ*1では



(4)マヤズムの原理

マヤズムって何でしょうか。それは「原始的土壌」という意味で、私たちがどんなにがんばっても食い止めることができないものです。私たちの先祖が重い病気にかかったにもかかわらずそれを押し出せないまま子供を作っていったためにDNAに記憶されてしまったというものがマヤズムで、私たちは次の5つの土壌の何れかから生まれてきていますし、いまでは二つ以上の土壌をもっている人がほとんどです。まずは疥癬マヤズムで、これはマヤズムの中で最も古く、欲望や恐怖の感情をもっています。お金が足りない、家が欲しい、あれがほしいこれがほしいといった感情ですね。次が淋病マヤズム、これは過剰の感情ですね。次が淋病マヤズム、これは過剰の感情ですね。とにかくお金のことばかり考えています。梅毒マヤズムは破壊の感情で、結核マヤズムは新しいもの好きで非常にロマンチック。生きる喜びを謳歌したいという感情です。そしてガンマヤズムは自分を抑制するんですね。いい人なんですよ。ガン患者の人はたいがいがいい人です。なんでこんないい人が病気になるのかというぐらいです。そこには自分がやりたいことと自分ができることのギャップがあるわけです。今の日本人にはこのマヤズムが非常に多いですね。


とある。「DNAに記憶されてしまった」というのがとくに味わい深い。獲得形質遺伝どころか、hotsumaさんの言うように「親の因果が子に報い」レベルの話。ホメオパシーの創始者であるハーネマンは18〜19世紀の人間であったので、「DNAに記憶されてしまった」などと言うわけがない。ハーネマン以降に、DNAを調べてマヤズムを遺伝学的に証明した研究者がいたか、あるいは科学的な証明なしに科学っぽいDNAという用語を使った詐欺師がいたかかのどちらかだろう。後者だとしたら、ホメオパシージャパンのいうマヤズムは「見かけは科学のようだけれども、実は、科学的とはとても言えないもの」というニセ科学の定義にぴったりあてはまる。

DNAはともかくとして、マヤズムという概念自体があまりにもアレなので、そもそもマヤズム自体がホメオパシージャパンのオリジナルではないかとも疑った。しかし、ホメオパシー大百科事典(Dr.アンドルー・ロッキー著*2、産調出版、原著は2000年)によると、マヤズムの発見者はやはりハーネマンであるそうだ。P20より引用。



マヤズムと疾病素質

ハーネマンは長年にわたってホメオパシーの研究を進めるうちに、患者本人の状態に合せて薬を処方しても反応があったようにはみえないケース、あるいは回復し始めてもすぐに病状が逆戻りするケースがあることに気付いた。彼はこのようなケース全体を1つのグループとして研究対象とし、総体的、先天的でより高いレベルに属する問題が原因であるという結論に達して、これを「マヤズム」と名付けた。「マヤズム」とは、本人またはその家族の過去の世代に存在している、根底に潜む病気または感受性の長期的影響ということができよう。ハーネマンが特定したマヤズムは3つ、Psora(疥癬)、Sycosis(淋病)、Syphilis(梅毒)である。ガンと結核もマヤズムの可能性があるとする説も一部にはある。マヤズムに対処するため、ハーネマンは病原そのものから「ノゾ」といわれるレメディーを開発した。使用する材料はみな病気に感染したものだったが、ポテンタイゼーション過程で希釈と振とうを繰り返すことで滅菌され、全く安全に使うことができた。


さすがにDNAがどうとかいう話はなし。「反応があったようにはみえないケース、あるいは回復し始めてもすぐに病状が逆戻りするケース」の存在は、ホメオパシーにはプラセボ効果ぐらいしかないとすれば別に不思議ではない。私が考えるに、「マヤズム」とは、ホメオパシーが効果を発揮しなかったときの言い訳のためのアドホックな仮説(その場しのぎの仮説)なのではないか。効果があれば、「ホメオパシーが効いた」。効果がなければ、「マヤズムのせいだ」というわけ。類似した言葉に「好転反応」がある。

*1:URL:http://www.homoeopathy.co.jp/introduction/lavie_2000_06.html、引用者によって機種依存文字を改変

*2:肩書きは、「ホメオパシー医師免許取得。The Royal College of General Practitioners(王立医科大学)在職。ホメオパシー教授」だそうだ。「一般医として活躍した後産科・婦人科免許取得」ともある。少なくとも由井寅子よりかは信用できそうだ。