NATROMのブログ

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花粉症を治す唯一のもの?

■瀬戸弘幸ウォッチで紹介した■健康と美を優しく語るブログ 優健美館*1にて、せと弘幸先生は今度は「アメリカにおける花粉症対策」として、花粉の錠剤を紹介していた。これが危うい内容であった。実は「経口免疫寛容」という概念はあって、アレルゲンを経口的に摂取させることによってアレルギーを抑えようという試みはなされている。たとえば、花粉症 経口 減感作 ac.jpというキーワードでGoogle検索してみよう。後述するように、自己流でこれをやるのは危険である。

せと先生の紹介する資料によれば、食用の花粉は「花粉症を治してくれる唯一のもの」なのだそうだ。「対照をとった科学的な比較試験が行われておらず、証拠に欠けているために、医学界を支配している医師たちはそれを認めようとはしない」一方で、「花粉症に悩んで苦しんでいる人達は、医師も例外ではなく、花粉を摂っている」とのこと*2。結局、医師が認めているのか認めていないのかよく分からない。ここでの食用の花粉とはミツバチが集めたもので、「花粉症の原因になっている花粉」とは別物とのこと。すると、経口免疫寛容とは無関係なのか。ところが、以下の記述を読むとそうでもないらしい。花粉症に苦しむハーキン上院議員が、同僚の勧めで「花粉の錠剤」を試してみることに。


■アメリカにおける花粉症対策として(2)*3


 指示に従って最初に摂るとき2,3粒飲んで10分間待った。(花粉にアレルギーがないことを確かめるために、それは絶対に必要。最初は少量摂って自分の反応を見ること。)


shinok30さんがコメント欄で適切に突っ込んでいるように、これは危険。アレルギー反応は微量でも起こりうる。「2,3粒」だから大丈夫とは言えない。もしアナフィラキシーでも起こしたらどうするつもりだったのだろう。アナフィラキシー反応が起こる可能性があるのなら、医師の監視下によって行うべき。しかし一方で、以下の記述を読むと、やっぱり経口免疫寛容とは無関係のように思える。


■アメリカにおける花粉症対策として(3)*4


 一日に60粒飲んだとき、彼は目のかゆみが減ってきたと思った。そして、摂りはじめて6日目に、それは起きた。
 ー彼のアレルギー症状が突然、急に止まった。驚いたことに、彼の花粉症は消えていたのだ。


わずか6日間でアレルギー症状が突然消失するような劇的な効果。減感作療法がこんなにもすばやく効果を現すとは思えない。あるとしたら、たとえばステロイドが含まれていたとか。言うまでもなく、ステロイドは花粉症等のアレルギー疾患に効果がある一方、さまざまな副作用があり、医師の管理下で使われるべきである。「自然な」製品と称して販売されていた健康食品にステロイドが含まれていた事例はある*5。いずれにせよ、かような劇的な効果を有するものを私なら絶対に口にしたくない。こうした体験談を読んで健康食品を試したくなるような人の気が知れない。実際には、このような劇的な効果はないのだろう。体験談自体が捏造であるか、アレルギー症状の消失は偶然で花粉の錠剤は無関係かだと思う。

「花粉の錠剤」の効果が体験談の通りであれば、科学的証拠がないのは不自然である。こんなことは医学知識がなくても知恵があるなら分かる。アメリカ人の約5人に1人が花粉症であり、食用花粉を摂っている医師もいるとのこと。彼らはなぜ研究しないのか?他の薬に抵抗性の花粉症に対しわずか6日間で劇的な効果を発揮する薬剤!富と名声を攫むチャンスはすぐそこだ!多くの被験者を長期にわたって経過を追う必要のある大規模臨床試験と訳が違う。花粉症の患者はたくさんいる。最初は必ずしもブラインド条件にせずともよい。患者を二群に分けて2週間後ぐらいにでも評価すればよい。本当に体験談ほどの効果があるのなら、一シーズンだけで学会発表に十分なデータを得られるであろう。

*1:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/

*2:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/360327.html

*3:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/374032.html

*4:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/376560.html

*5:■厚生労働省:ステロイドが含有されたいわゆる健康食品について