NATROMのブログ

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生体移植の規制強化案

民主・社民両党の有志議員が生体移植の規制を強化する臓器移植法改正案を衆議院に提出したというニュース。


■生体移植の規制強化へ、民主・社民の有志議員が改正案提出(読売新聞・強調は引用者による)


民主・社民案では、生体移植の臓器提供者を親子、兄弟など2親等以内の血族と配偶者に限定、医療機関に倫理委員会の設置を義務付ける。


ちなみに、現在の法律では、生体移植のドナーはとくに限定されていない。甥だろうと、配偶者のいとこだろうと、知人でも赤の他人でも、法律上は特に規制されていない。ただし、各病院や学会のガイドラインはある。たとえば、日本移植学会倫理指針では、生体臓器移植のドナーについて以下のように規定されている。


■日本移植学会倫理指針


(1) 親族に限定する。親族とは6親等以内の血族と3親等以内の姻族を指すものとする。
(2) 親族に該当しない場合においては、当該医療機関の倫理委員会において、症例毎に個別に承認を受けるものとする。 (後略)


生体移植には健康なドナーを傷つけるという、死体移植にはない問題点がある。よって、何らかの規制が必要となるのは当然である。しかし、民主・社民案はあまりにも厳しい。たとえば血のつながったいとこ、配偶者の同胞については、日本移植学会の指針ではOKだが、民主・社民案ではNGとなる。民主・社民案では例外規定は明記されていないが、日本移植学会の指針では、親族でなくても、倫理委員会で承認を受ければOKとなる。もし民主・社民案のような規制があったなら、今はもうこの世にいないはずの生体肝移植患者もいるのだ。

それに、法律と学会指針では重みが違う。学会指針には拘束力がない。学会に加入していない移植医が、指針から外れた移植を行ってもなんら罰則はない。指針に準じてくれればまだいいが、たとえごく一部であっても倫理に無頓着な移植医がいれば、「ならば法律で規制せよ」という声があがるのも理解できる。ごく一部のマナーの悪い喫煙者のせいで路上禁煙の条例ができたときの喫煙者も、こんな気持ちだったのかも。