NATROMのブログ

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老衰の「発病」はいつ?


まずは新聞記事の引用から。


■誤診めぐり遺族が病院を提訴 (新潟日報)


 柏崎市の刈羽郡総合病院(小林勲院長)で刈羽村の男性=当時(90)=が腹膜炎で死亡したのは、医師が誤診して見落としたからだとして、男性の遺族が29日までに、同病院を運営する県厚生連を相手取り、慰謝料など約2500万円を求める訴訟を新潟地裁に起こした。
 訴状によると、男性は同病院に入院していた2006年8月上旬、下痢や腹痛が続いたが、同病院は、食べ物を飲み込んだ際、誤って気管に入って引き起こされる誤嚥(ごえん)性肺炎と診断。胸部CT検査で肺炎は見つからなかったが、担当医師は同肺炎の治療を続け、男性は同月24日、腹膜炎で死亡した。


強調は引用者による。90歳で2500万円かあ。まあすごーく元気な90歳もいるから一概には言えないけれども、こういう例を見るに、「80歳以上の死ならいくら肺炎になっていても、死因を老衰にして、その他の病名に肺炎と書くようにしています。できるだけ老衰という死因を書くべきです」というbさんのコメントはもっともである。たとえば死亡の直接原因に「誤嚥性肺炎」と書くと、「誤嚥がなければ死ななかった」「肺炎をちゃんと治療しさえすれば死ななかった」と考える遺族もいるだろう。ただ、死亡診断書(死体検案書)は「死因統計作成の資料としても用いられる」ため、できれば老衰死にもきっちりとした基準があったほうがいい。

だいたい、「発病(発症)又は受傷から死亡までの期間」という欄があるが、老衰の場合はどう書けばいいのだろう?出生時から老衰は始まっていると考えれば、「90年前」とか書くのか。それはいくらなんでもあんまりか。それとも、身体機能が弱まった時期からの期間を書くのか。それはそれで曖昧この上ない。「不詳」や空欄にしておくという方法もある。そのほうが安全そうではある。