NATROMのブログ

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FSMの教典


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■反・進化論講座―空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書(ボビー・ヘンダーソン 著, 片岡夏実 翻訳 )

見つけたときは、「ああ、またトンデモ本か…」と思い、ネタにするために手にとってみたところ、なんか裏表紙に見覚えのある「モンスター」の絵が。サブタイトルに、「空飛ぶスパゲティ・モンスターの福音書」とあるやん。「進化論と並んでインテリジェントデザイン(ID)説が学校で教えられるべきだというなら、フライング・スパゲティ・モンスター(FSM)による創造も教えられるべきだ」と、カンザス州教育委員会に手紙を出したまさそくその人、ボビー・ヘンダーソンが著者。現在は「フルタイムの預言者で身を立てている」らしい。つうわけで、お布施の意味もこめて早速購入した。

原題は"The Gospel of the Flying Spaghetti Monster"なのに、邦題は「反☆進化論講座」。反進化論に割かれたページは最初の4分の1ぐらい。アレな人が反進化論の本と思ってうっかり買ってしまうことを狙ってのことか。実は必ずしもパスタファリアリズム(FSM教)が反進化論というわけではない。「私たちは進化などあるわけがないと言っているわけではない。ただ、それはスパモンのヌードル触手に導かれたものだと言っているだけだ(P26)」そうだから、進化の証拠はFSMを否定する根拠にならないのだ。さすが、「実証的証拠に基づく唯一の宗教」である。それにしても、FSMを「スパモン」と訳すのはいかがなものか。

FSM教は、ID説と対立する部分もあるが、誉めるべきところは誉めている。


IDと同様に、私たちは従来とやや異なる科学的方法を用いる。まず結論をはっきりと定め、次にそれを裏付ける証拠を集めるのだ。これでより適切で柔軟な研究ができるだけでなく、あらかじめ結論が決まっているので調査がずっと簡単になることも特筆に値する。この点でID支持者は、独創性を賞賛されるべきだ。今まで科学者は何ヶ月も何年もかけて道のものと格闘しなければならなかったが、彼らは今、都合のいい結論を選んで、それを裏付ける証拠を探すだけでいいのだ。正直なところ、私たちもこの新しい科学的方法論を利用しているが、これを最初に考え出した功績は当然IDの人たちにある。(P37)

「新しい科学的方法論」は、ID説以前にも、若い地球の創造論者によっても用いられているが、まあ両者とも似たようなものだからいいか。

反進化論以外の残りの4分の3は、いまいち穴埋め感が拭えないが、Q&A、ヌードル聖書、パンフレット、FSM像の作り方、啓蒙協会による論文集など。(たぶん)エホバの証人のパロディとなっているパンフレットには、有名な「地球の平均気温と海賊数の対比」のグラフが提示されている。何気にもともとのグラフの横軸のとり方が訂正されていた。もとのほうが味があったと思う。