化学物質過敏症といって、農薬や食物添加物といった化学物質や、重症になると電磁波によってもさまざまな症状が引き起こされるとされる病気がある。私は、■化学物質過敏症に関する覚え書きで述べたように私は化学物質過敏症という概念に懐疑的なのだが、それもこの疾患概念を主張している人たち(臨床環境医)は、どうも自然科学についての理解がいまいちであるからなのだ。有名どころでは、週刊金曜日編「買ってはいけない」の著者に臨床環境医がいる。政治的な目的のために意図的に過激な発言をしているってのならともかく、彼らはマジなように見える。
日本の臨床環境医学の第一人者として、北里大学医学部名誉教授で、北里研究所・臨床環境医学研究センター長で、日本臨床環境医学会理事長ある石川哲氏があげられる。厚生労働省の室内空気質健康影響研究会のメンバーにもなっている。石川氏による本を読んでみたが、ちょっとそれはどうなのよという記述が散見される。たとえば、「いまの医学教育は『中毒=細胞死』という前提で研究していて、機能異常という発想がないからけしからん(要約)」*1という宮田幹夫氏(北里大医学部教授)の発言に対して、
細胞の機能がおかしくなって、細胞自体が自殺して、それがガン化していくことを意味する「アポトーシス(APOPTOSIS)」という言葉があるんですが、このアポトーシスを誘導するのも完全な機能の問題で、細胞に起こるわけでしょう。それがいま、ガンの研究ではものすごく大切な概念として注目されているんですが、中毒でアポトーシスを起こすというと、研究者から猛反発が出る。日本の医学界は、そういうへんな世界なんですよ。中毒で起こるアポトーシスの一番はっきりしたのが、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)ですね。(「化学物質過敏症」P184、柳沢幸雄 石川哲 宮田幹夫)
と石川氏は答えた。細胞が自殺することをアポトーシスと呼ぶところまでは正しいのであるが、ガン化はアポトーシスが起こらず細胞が死なないから起こるのである。ガン化するところまで含めてアポトーシスとするのは誤りというか正反対の理解。そのような理解であるから、研究者から猛反発が出るのだ。石川哲氏による化学物質過敏症に関する英語論文がほとんどないところからみて、世界の医学界もへんな世界なのだろう。最後の文章など、私には意味がわからない。得意げな顔して何が、アポトーシス、だ。アポトーシスと言いたいだけちゃうんか。
もう一つ、石川センセイのお茶目なところを紹介しよう。健康医療基地(臨床環境医学施設)の構想の説明で、
床はタイル、壁や天井はホウロウびきになります。窓枠はアルミで、木材は防腐加工がされていないものを用います。ベッドは鉄と木綿でつくられています。スプリング・ベッドは使いません。それは、バネがコイルの作用で電磁波を誘導するからです。着衣も無農薬の木綿が最良です。そそて、患者に安全な食物と水が提供されることになります。(「化学物質過敏症ってどんな病気」P126 石川哲著、強調は引用者による)
と述べている。私が理解している物理学では、コイルから電磁波が誘導されるのは、コイルに電流が流れたときのはずなのだ。スプリング・ベッドのバネには電流が流れているのだろうか。ベッドのスプリングによって何らかの症状が生じる人がいたとして、それは電磁波ではなく他の何かが原因だと私は思う。日本であれば布団で寝ればいいが、外国の化学物質過敏症患者はどうしているのかというと、ちゃんと専用の木製のスプリングがあるそうだ。
*1:この発言もちょっとどうかと思う。有機リン中毒の機序が、細胞死ではなく、コリンエステラーゼ阻害による機能異常だということを北里大学では教育していないのか。