NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

化学物質過敏症の番組

化学物質過敏症については、以前から興味を持っている。■化学物質過敏症に関する覚え書きというページをつくったくらいだ。主流の医学界からは懐疑的に見られているのだが、マスコミで紹介されるときにはそうした主張は載らない。科学や医学について理解している人は、程度の差こそあれ、私の主張に賛同していただけるだろうと思う。さて、今回、化学物質過敏症を扱った番組が放送された。


■素敵な宇宙船地球号 ここが見どころ!!


今、世界では化学物質過敏症に悩まされている人が増加しています。日本でも約70万人がこの病気に苦しんでいます。
今回は2005年1月に放送した“Dear地球様 16歳からの手紙―化学物質過敏症の少女”の続編です。あれから一年、梅原万海花さんは17歳の誕生日を迎えました。4年ぶりに会うことができた祖父母とのお正月や両親の想い、そして、万海花さんの地球環境への想いを映し出しました。また、化学物質過敏症の患者に対する地域ぐるみの協力も追いました。
さらに番組では、化学物質過敏症の治療の最先端であるアメリカへ行き、テキサス州にあるダラス環境医療センターの最新情報や、化学物質過敏症で家族が離れ離れに暮らす14歳の少女アリーを取材しました。

前回は見逃してしまったが、今回は忘れずに見た。梅原万海花さんは自宅の二階で療養中で、酸素投与され、トイレ移動もままならない。面会者はシャワーを浴びて着替えてからでないと部屋に入れない。「原因不明の高熱や不整脈が起こり、10歳のときに化学物質過敏症と診断された」とのこと。原因は「家の建材に使われていた化学物質」。

高熱や不整脈などの他覚症状が生じるのは化学物質過敏症としては非典型的である。多くの場合、諸検査にて異常がないため「気のせい」であるとされてしまいがちなのが問題にされている。まあ、化学物質過敏症の症状はなんでもありなので、それでもよいのであろう。しかし、他にも除外すべき疾患(皮膚筋炎など)があると思われるが、その辺がきちんと診断がなされているのが気になるところである。

「最先端の治療と研究が行われている」ダラス環境健康センターでは、14歳の少女が中和法を受けていた。中和法とは誘発中和法のことであろう。あらためてPubMedで検索してみたが、誘発中和法を盲検法で効果を証明した論文は発見できなかった。「最先端の研究」とは具体的に何を指すのであろうか。

「病気として正式認定されていないのが現状」とあったが、正式認定されていないそれなりの理由はある。化学物質過敏症について精力的に活動している医師たちは臨床環境医(clinical ecologist)と呼ばれているが、彼らの診断方法がいいかげんで、治療法もきちんとしたエビデンスがない。ホメオパシーも治療法の一つになっているくらいだ。Quackery(インチキ医療)について情報を提供しているサイトであるQuackwatchでは、多種類化学物質過敏症は"Questionable Products, Services, and Theories(疑わしい製品、サービス、理論)"の一つとされている

番組の性質上、その辺のことを突っ込みにくいのはしょうがないだろう。患者や臨床環境医の協力を得ているのだから。さりとて、「化学物質を垂れ流す現代社会けしからん」という論調も難しい。なぜなら、スポンサーがトヨタグループだから。紹介されていた患者の発症の原因となった化学物質が特定されていないのも、その辺に理由があるのかもしれない。というわけで、番組の内容は、患者の生活の紹介が中心で、概ね無難なものであった。