NATROMのブログ

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虹彩診断学

■虹彩で病気診断?Do you think for the future?)で、紹介されていたけれども、人工知能開発のサイナップス・コミュニケーションズという会社が虹彩の画像で疾病の疑いの有無を教える事業が始めるんだそうだ。

■目の虹彩画像で病気の疑い判断・サイナップス(NIKKEI NET)


 虹彩は角膜と水晶体の間にある円盤状の薄い膜。疾病診断技術に取り組んできたアルメニアの人工知能開発センターが、疾病ごとに虹彩の状態が異なることに着目。相関関係をデータベースに構築した。この成果を使い、インターネットで情報を伝えるサイナップスの技術と組み合わせる。
 利用者は携帯電話で所定のホームページに接続し、指示に従い携帯で撮影した虹彩の画像を送信する。サイナップスは斑点の有無や変形など虹彩の情報を分析、データベースと照合して内臓疾病などの可能性を指摘する。医療行為には踏み込まず、情報提供や食事・運動など健康法の紹介などにとどめる。料金など詳細は詰める。

まともな判断力がある人なら、「携帯のカメラで撮影した瞳の画像で疾病の診断なんかできるのだろうか?」という疑問を抱くのはもっともである。実は虹彩診断学(iridology)は日本ではあまり知られていないが、海外では結構ポピュラーなQuackery「インチキ医療」である。かのガードナーの「奇妙な論理」にもちゃんと記載がある。「医療の四大宗派」という章で、自然療法(ナチュロパシー)の一種として紹介している。


虹彩診断とは、目の虹彩の様子を見て診断するものである。この偉大な科学の発見者はブダペストの医者イグナツ・ペイツェリーPeczelyで、彼はこれについての本を1880年に出版した。この技術にドイツとスウェーデンの同種療法医*1たちがすぐに反応をみせ、アメリカにはヘンリー・E・ラーンが紹介した。ラーンはこの問題に関する最初の英語の本を1904年に書いた。ラーンの弟子の自然療法医ヘンリー・リンドラーLindlahrは1917年に決定的な研究『虹彩診断と他の診断法』を出した。しかしその後もいくつかの著作が現れている。

さまざまなQuackeryを紹介したサイト、Quackwatchでも、虹彩診断学が紹介されている。■Iridology Is Nonsense。要するに虹彩診断学の主張は、虹彩の各部分と人体の臓器が対応しており、臓器に異常がおこるとそれに対応した虹彩の部分に反応があらわれるというわけ。我々日本人にもっともなじみがあるものにたとえると、足の裏の反射区だ。

虹彩診断学にも長所があって、それは正しいかどうか検証可能だという点。たとえば、腎臓の悪い人100人の虹彩と、健康な人100人の虹彩を虹彩診断医に見せて、正しく診断できるかどうかをテストできる。実際に何度もそうしたテストは繰り返されていて、統計的有意差をもって診断に成功した人はいない。だから虹彩診断学はQuackeryなのだ。有用なものであれば、とっくに実用化されているはずだ。例の携帯で疾病の疑いを教える事業だが、こんな占いと同レベルのものに金を払う人の気もしれない。しかし、占いに喜んでお金を払う人がたくさんいることだし、実は成功するかもしれない。いずれにしろ、本気にする人がいないよう、注意書きには気を使ってもらいたいものだ。

*1:同種療法=ホメオパシー