NATROMのブログ

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ブッシュの進化論

■ブッシュの進化論(マッド・アマノの「今週のパロディ」)

ブッシュはキリスト教右派、つまりアメリカ合衆国で「進化論を教育から追放しろ!」とか言っている人たちの支持を受けているのだ。最初は、そうした観点からのパロディかとも思ったけど、全然違った。いろいろな意味で萎え。いまどき、猿から人への進化図かあ。グールドがさんざん批判していたね。そうした直線的・梯子的な進化観を正しいと思っている進化生物学者はもはやいないけど、一般の人には進化といえばあの「進化図」なんだろうなあ。また、「進化=進歩」の誤謬も見られる。


サル年にちなんで類人猿から人間へと変化をとげている進化論について考えてみようと思う。結論を急ぐなら確実に"人類は退化している"と言えそうだ。たしかに科学や医学などあらゆる分野の技術は進歩しているけれど、「人間、いかに生きるべきか」という哲学がどうしようもないほど遅れている。
技術が進歩していようといまいと、「いかに生きるべきか」という哲学が遅れていようといまいと、それは進化とも退化とも関係ない。要するにマッド・アマノ氏は「ブッシュは馬鹿だ」と言いたいわけだ。それには同意するけれども、プレゼンの仕方があまり良くないわけ。あと、気になったのが、劣化ウラン問題。

「ショックと畏怖作戦」と名づけたイラク戦争では2万発もの誘導爆弾が雨あられと投下され、大量の劣化ウラン弾が使用された。すでに米軍帰還兵にも劣化ウラン弾の被害が出ているが、その何十倍も深刻なのがイラク市民の被害だと言われている。イラク南部のバスラを中心とした諸都市では、癌・白血病が3-7倍に増加したと報告されている。
私もちょいと調べてみたんだけど、劣化ウランの害についてのネット上のサイトの情報は玉石混交だ。私が調べた限りでは、劣化ウランの放射能の害は限定的なものだ(参考)。ある程度の科学的・医学的知識を持っている人なら、概ね賛同してもらえると思う。劣化ウランにわずか数年で白血病を引き起こすほどの害があるとは考えにくい。可能性はないとは断言できないが、劣化ウランが白血病の原因となるという主張にはそれに見合うだけの証拠が必要であり、そして現時点では証拠はない。癌・白血病の増加(増加が事実であるとして)が劣化ウラン弾の被害であると現時点では断定はできない。イラク侵攻が死亡を増やしているのは事実である。しかし、安易で非科学的な主張がかえって反戦運動の目的を損なっているのではないか。内科開業医のお勉強日記より。

■イラク侵攻:10万人の戦争による死亡


反戦団体が劣化ウランに執着する理由が私にはちっともわからないのだが、ここで紹介の内容の方が事実らしく思え、・・・わたしは彼らの意見に反感すらわいてくる。化学毒性ならともかく放射線被害というのは納得できないので・・・
共感を得たいのなら因果関係不明な写真を多数掲載したビラを配るより、背景のしっかりしたできるだけ押さえた科学的根拠を示した方がしっかりとした共感をうることができると思う。
私もまったく同意見である。ちなみに、マッド・アマノの「今週のパロディ」が掲載されているサイト(Web雑誌「憎まれ愚痴」)の編集長は、木村愛二氏だそうだ。(参考:木村愛二氏とのガス室論争