■体験談は丸山ワクチンに効果があるという根拠にはならないにおいて、「医療ジャーナリスト」の木原洋美さんからコメントをいただきました。コメント欄にはお返事したのですが、現時点(2024年9月27日19時)において木原洋美さんから反論のコメントはありません。しかし、■木原洋美さんのFacebookには言及がありましたので、ここでお返事いたします。
現在において丸山ワクチンが承認されていない理由は1970年台の「有力者の圧力」とは無関係
「有力者の圧力がありうる」ことは最初から認めております。プレジデントオンラインにおいて「丸山ワクチンが開発された1970年代にはそのような圧力があったのかもしれません」と述べています。有力者の圧力はあったかもしれないし、なかったかもしれませんが、2025年の現在において丸山ワクチンが承認されていない理由は、質のよいエビデンスの不在だというのが、私の主張です。
なお、■体験談は丸山ワクチンに効果があるという根拠にはならないのコメント欄において「節操のない者」さんから、「有力者の圧力」はなかったという説得力のあるコメントをいただいています。現時点では、「節操のない者」さんの意見に私は納得しています。
承認に値するだけの質のよいエビデンスは存在しない
「エビデンスが存在しない」というのも間違いだ、とのご主張ですが、まず、承認に値するだけの質のよいエビデンスを木原洋美さんが提示すべきです。2006年以降に施行された複数のランダム化比較試験では否定的な結果でした。1983年の和文誌の論文(https://www.ssm-cancer.gr.jp/archives/013/index.html)についても、エビデンスの質以前に、negative study、すなわち「丸山ワクチンの有効性を示せなかった」研究だ、と指摘しましたが、いまのところ木原洋美さんから反論はありません。その他は、せいぜい、ケースシリーズや動物実験、in vitroのレベルのものです。
やなせ夫人の経過についての不自然さ
「やなせ夫人が「余命3カ月宣告」をされたのは術後であって、術前ではありません」と木原洋美さんが主張しておられることも存じています。私も『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)を読んで確認しました。「余命宣告されたのは手術前なのか手術後なのか」は論点ではないのです。余命宣告されたのが手術後であろうとなかろうと、乳がんの手術当日に余命3カ月と宣告されるのは医学的にきわめて考えにくいと私は主張しているのです。
おそらく、木原洋美さんは、「術前はもっと予後が長いとみなされていたが、手術中の所見から余命3カ月と判断された」とお考えなのでしょう。確かに、腹膜播種など、術前の画像検査では診断が難しく、開腹して肉眼所見ではじめてわかることもあります。しかし、暢さんの病気は乳がんです。開腹はしません。肝転移や骨転移は、1988年の大学病院であれば、腹部超音波検査や骨シンチグラムで術前に評価できますし、術中所見ではわかりません。■体験談は丸山ワクチンに効果があるという根拠にはならないの木原洋美さんのコメントを引用します。強調は引用者によります。
それから「余命3カ月の患者に手術はしない」とのことですが、暢さんの「余命3カ月宣告」は術後になされました。開けてみたら「全身に転移しており、肝臓にもびっしりであることがわかりました。手術できません」と言われたとあります。「開けてみたらびっくり」と言うのは、今もよくあることです。がんの確定診断は、画像診断だけでは難しいですよね。
何を開けたのですか?「開けてみたら」という記述は、やなせたかしさんの著作に書いてありましたか?木原洋美さんが付け足したのではありませんか?木原洋美さんがこの文章をお読みになっていたら、お返事をください。
やなせたかしさんの著作からは、レントゲン写真を供覧して説明されたともあり、術中所見から短い余命が判明したという説と矛盾します。■体験談は丸山ワクチンに効果があるという根拠にはならないのコメント欄にも『乳がん患者の手術は普通は開腹しないですよね…「肝臓にもびっしり(転移があった)」としたら術前の腹部エコーなどでわかったはず…』というコメントがあります。これが、一般的な医師の解釈でしょう。
がん医療についてあまりご存知なく、乳がんの手術では開腹をしないことを知らない人であれば、開腹手術中に腹膜播種が発見され、治療を断念した身内の経験を一般化してしまい、それを乳がんにも適用できると誤解するかもしれません。しかし、木原洋美さんはがん医療について詳しいとお見受けしますので、暢さんの経過についての合理的な説明を期待します。
病的疲労に対するドネペジルの有効性について
「新型コロナ後遺症」に代表される病的疲労に対し、認知症治療薬「ドネペジル」の有効性を突き止めた、と称する記事について。私の見解は以下
https://x.com/NATROM/status/1950068895974396180
ランダム化比較試験で主要評価項目も副次評価項目も有意差なし。結果が示せなかったのですから、『日本人の2人に1人が困っている「休んでも取れない病的疲労」についても原因と治療薬の発見に成功した』という主張は完全に誤りです。しかし、木原洋美さんは以下のように述べています。
慈恵医大の論文集(というか、学会発表の抄録集)とオープンアクセスのものとは「結果と結論が違います」とありますが、同じです。negative studyです。抄録集では「被検者全体を解析した結果,ドネペジルは有意に倦怠感を軽減させることはできなかった…」とあります。論文のほうは" In this randomized clinical trial of donepezil to treat post-COVID-19 condition, the efficacy for fatigue and psychological symptoms was not confirmed in a general population.(COVID-19後症状の治療を目的としたドネペジルのランダム化臨床試験において、一般集団における疲労感および精神症状への有効性は確認されなかった)"。
たぶん、層別解析のことをおっしゃると思いますが、これは事後解析ですので、別の集団で再現性を確認するまでは結論できません。学会発表の抄録は査読が緩いので景気のよいことを書けますが、論文ではSPIN(粉飾)とみなされます。読むほうも抄録については割り引いて読みます。これまでの経緯で疑問に思ったのですが、木原洋美さんは論文はお読みになっていますか?読んで、このコメント、あるいは、あの記事というのは、ありえないように思います。
実薬群(40μg)の生存率について、外部対象と比較する妥当性について
2006年の第3相ランダム化比較試験の実薬群(40μg)において、対照群(B液)と比較して低い生存率であったことに関する解釈について、木原洋美さんからのお返事をいただいていません。以下に質問を再掲します。
2006年の第3相ランダム化比較試験の実薬群(40μg)の生存率の解釈についてですが、「臨床試験は適格基準を満たした患者しか参加できないから、より幅広い患者が含まれるがん登録のデータとは比較できない」という指摘に対して、何か反論はありますか?
なぜランダム化が必要なのかを理解していたら「有害である可能性を指摘する根拠はない」という主張が成り立たないことも理解できるはずです。がん登録のデータのような外部データと比較してよいのであれば、そもそも対照群を置かず single-arm 試験だけで十分ということになってしまうはずです。
それに、B液対生理食塩水では有意差なし、40μg対B液では40μgの生存率が悪いという結果ですので、一番素直な解釈は「40μgは生存率を下げる」です。


