NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

名前に歴史あり

トゲアリトゲナシトゲトゲという虫がいるらしい*1。トゲがあるのかないのか分からない。

■トゲアリトゲナシトゲトゲ(棘有棘無棘々)

もともとトゲハムシというトゲのある虫のグループにトゲのない種類がおり、トゲナシトゲトゲと命名された。しかし、トゲナシトゲトゲのグループの中に、トゲを持つ種が発見され、トゲアリトゲナシトゲトゲと命名された。まあネット上の情報を総合するとそんな感じ。いかにもありそうだ。病名にも似たようなものがある。

副甲状腺は副甲状腺ホルモン(PTH)というカルシウムとリンを調節するホルモンを分泌する。このホルモンの分泌が何らかの理由でうまくいかなくなれば、副甲状腺機能低下症*2となる。副甲状腺機能低下症は血中副甲状腺ホルモン濃度は低値で、それを反映して血清カルシウムは低値をとる。

ところが、血清カルシウムは低値なのにも関わらず、血中副甲状腺ホルモンが低値でない(むしろ高値)症例もあるのだ。一見副甲状腺機能低下症のように見えるが実は違うため、偽性副甲状腺機能低下症という。その原因は、副甲状腺ホルモン分泌不全ではなく、ホルモンの標的臓器の不応である。副甲状腺ホルモン受容体以降の細胞内シグナル伝達に障害があることまで分かっている。遺伝形式は常染色体優性遺伝とされている。副甲状腺ホルモン分泌機能は正常のため、血清カルシウム低値が刺激となりフィードバックにより血中副甲状腺ホルモンは上昇する。また、偽性副甲状腺機能低下症は、特徴的な身体所見(低身長、肥満、円形顔貌、短指症、皮下の骨化など)を伴う*3

ところが、家族歴もあり、偽性副甲状腺機能低下症が示す特徴的な身体所見を持っているにも関わらず、血清カルシウムや血中副甲状腺ホルモンが正常という症例もあるのだ。一見偽性副甲状腺機能低下症のように見えるが実は違うため、偽性偽性副甲状腺機能低下症という。偽性の偽性だから副甲状腺機能は低下していると思いきや実は正常。英語では、pseudopseudohypoparathyroidismという。長い。病因遺伝子を母親から受けつぐと偽性副甲状腺機能低下症になり、父親から受け継ぐと偽性偽性副甲状腺機能低下症となる。ゲノムインプリンティングが関与しているのだね。

pseudopseudoscience(擬似擬似科学)なんてのもありかな。フライングスパゲティモンスター教など。


各疾患の特徴
血清Ca血清P血中PTH身体所見
(特発性)副甲状腺機能低下症なし
偽性副甲状腺機能低下症あり(Ib型・II型はなし)
偽性偽性副甲状腺機能低下症正常正常正常あり

*1:和名が変更になったという情報もあり正しいところはわからない

*2:偽性副甲状腺機能低下症まで含めて広義の副甲状腺機能低下症に分類されることもある

*3:伴わない型もあるけどややこしいので割愛