NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

血液型と性格の関係を否定するまずい論法について

血液型と性格には強い*1関連があるという主張がある。血液型性格判断あるいは血液型占いと呼ばれている*2。こうした主張には科学的根拠はない。詳しくは■遺伝学からみた血液型性格判断で論じた。ニセ科学を論じる上では「定番」となっている話題である。さて、


■血液型占いにすっかり洗脳されている皆さまの目を覚ます呪文について | More Access! More Fun!


というエントリーが注目を集めている。このエントリーでは『女性誌やテレビを中心に蔓延している「血液型占い」は真っ赤な嘘である』と主張されており、その結論には概ね同意はできるが、結論を導く過程においていささか難があるように思える。「血液型占い」が真っ赤な嘘であるとしても、不適切な論法で批判するのはまずい。ここでは、かのエントリーのどの部分が不適切であったのか説明することとする。


アフリカ系アメリカ人にA型が多いことは血液型占いが間違っている根拠にはならない。

血液型占いでは「A型の人は、綺麗好きで几帳面」だとされているという。かのブログでは、明言はしていないものの、日本人と比較してA型比率が高い民族が、必ずしも「綺麗好きで几帳面」ではないことが、血液型占いが間違っている根拠になると示唆している。



世界的に見ますと・・・・アフリカ系アメリカ人、つまりB系のみなさんは81.8%がA型!!! 世界で一番めちゃくちゃ几帳面できれい好き!!!
フランス人も、イタリア人もA型比率は日本人よりもずっと高くてとっても几帳面!! だからイタ車は日本車より故障しないんだ、ん??!!!


まず、アフリカ系アメリカ人、フランス人、イタリア人が日本人と比較して「綺麗好きで几帳面」ではないと言えるだけの根拠がない。血液型占いを批判するのであれば、人種あるいは民族のステレオタイプ的な見方にも慎重になったほうがいい。また、仮の話として「A型が多いにも関わらずアフリカ系アメリカ人集団は、日本人集団と比較して、綺麗好きで几帳面ではない傾向がある」ことが事実であったとしても、血液型占いが間違っている根拠にはならない。

血液型占いでも、血液型が性格のすべてを決定しているとは主張されていない。血液型以外にも性格に影響する因子が存在し、A型であっても「綺麗好きで几帳面」ではない人がいることを否定していない。さて、アフリカ系アメリカ人集団と日本人集団は、血液型の頻度以外にも、多くの性格に影響する因子(他の遺伝的要因や文化などの環境要因)が異なっている。血液型以外の因子の影響で「アフリカ系アメリカ人集団は、日本人集団と比較して、綺麗好きで几帳面ではない傾向がある」であるのと同時に「A型の人は綺麗好きで几帳面である」は成り立ちうる。A型のアフリカ系アメリカ人は、平均的な日本人と比較して綺麗好きで几帳面ではないかもしれないが、非A型のアフリカ系アメリカ人よりは綺麗好きで几帳面かもしれないではないか。


綺麗好きで几帳面ではないA型の存在は血液型占いが間違っている根拠にはならない。

一例でもって統計的な主張を否定することはできない。



そして・・・私をご存じの方、わたしの車の中とか、机の回り、バッグの中とかを見たことのある方は想像付くと思いますが・・・わたしもA型です。自分でいうのもなんですが、机上はアマゾンの密林のごとくになっており、年に1回くらい整理をするとボールペンが10本くらい出てきます。電池は20本くらい発見できます。


説明不要であろう。肺がんにならず長生きした喫煙者が一人いたからといって、喫煙者は肺がんや他の病気になりやすいという主張を否定する根拠になるだろうか。


ABO血液型を決める物質が脳の中に入れないことは血液型占いが間違っている根拠にはならない。

血液脳関門といって、血液と脳の間には血液中の物質を通しにくい仕組みがある。毒性のある物質が容易に脳内に入るようだと生存上まずいからなのであろう。ABO血液型を決めている物質は糖鎖、あるいは糖鎖に対する抗体なのだが、これらが血液中から血液脳関門を超えて脳内に入れないというのはおそらく正しい。



「血液型の違いは赤血球の表面にある糖鎖の違いで分けられています。この赤血球は脳の中に入れません。(脳が赤くないのは脳の中に赤血球がないからです)性格による行動の違いは脳が起因していますので、血液型と性格は関係ないと言えます」

物凄い説得力!!!


しかしながら、この論法で否定できるのは、赤血球上の糖鎖が直接脳内に作用して性格に影響を与えている、という仮説のみである。赤血球(あるいは糖鎖や抗体)が脳内に入れなくても、性格に影響しうるメカニズムはいくらでも思いつける(そもそも赤いのはヘモグロビンであって糖鎖ではない!)。とりあえず3つほど思いついた。考えれば他にもあるだろう。


(1)ABO式血液型を決定する遺伝子は脳内で発現しているかもしれない。
 ABO式血液型を決める遺伝子の最終産物である糖鎖は血液脳関門を通れないとしよう。しかし、遺伝子そのものは脳内の細胞の中にも存在している。なるほど、この遺伝子が主に発現しているのは赤血球であるかもしれない(実はわりといろんな組織で発現している)。しかし、脳内の細胞でも発現して性格に影響している可能性は否定できない。


(2)血液脳関門を通る物質を通じて間接的に影響を与えているかもしれない。
 血液脳関門は物質を通しにくいとはいえ、通す物質もある(そうでなければ脳に効かせる薬は直接脳に投与しない限り効かないことになってしまう)。たとえば、IGF-I(insulin-like growth factor I)という物質は血液脳関門を通るそうである。IGF-Iでもいいし、他の血液脳関門を通りうる物質でもいいが、糖鎖や抗体がこれらの物質を介して間接的に脳内に、ひいては性格に影響をしている可能性は否定できない。


(3)ABO式血液型を決める遺伝子のきわめて近傍の遺伝子が性格に影響をしているかもしれない。
 ABO式血液型を決める遺伝子のきわめて近傍に、性格に影響する遺伝子(おそらく中枢神経系で強く発現している)が存在したとしよう。この二つの遺伝子の遺伝子座が連鎖不平衡の関係にあれば、見掛け上、ABO式血液型が性格に影響しているように見える。


それでは血液型占いが間違っている根拠は?

それぞれ、集団間の比較、個人的な事例、血液脳関門の存在は血液型占いが間違っている根拠となりえないことを論じた。それでは血液型占い、あるいは血液型性格診断は正しいのか?「正しくない」とかなりの自信をもって断言できる。その根拠は遺伝学的な、あるいは、心理学的な研究で、ABO式血液型と性格に強い関係が認められなかったことである。血液型と性格に強い関係があるかどうか何度も調べられたけどそんなものは無かったというのが根拠である。


*1:何万人を対象にした研究でやっと差が見えるというレベルではなく、日常生活をしていく上で参考になるレベルの強さの

*2:厳密には血液型性格判断と血液型占いの両者は区別されるべきものであるが、リンク先の用語に合わせて本エントリーでは厳密な区別をしなかった。主旨には影響しない