NATROMのブログ

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船瀬俊介氏「日本の平均寿命統計は捏造である。実際の平均寿命はせいぜい50〜60歳程度」

船瀬氏は「日本の平均寿命統計は捏造」と主張するが…

自称環境問題評論家の船瀬俊介氏が「日本の平均寿命統計は捏造である」と主張しています。「船瀬氏の言うことは正しいかもしれないなあ」となんとなく思っていた人でも、「日本人の実際の平均寿命は二人に一人は医者に殺される医療殺戮大国のため、推定ですが、せいぜい50〜60歳程度です」という船瀬氏の主張を読めば、かなりの方が船瀬氏を信頼しないほうがいいとご理解いただけるでしょう。


■26年連続で日本は世界一長寿国家の虚構 医猟詐欺犯罪を暴く! - YouTube*1


日本の平均寿命統計は捏造であることを船瀬俊介が語りました。
日本の26年連続で世界一長寿は後出しジャンケンの大嘘です。コンピューターが発達した時代に前年の平均寿命をなぜ次の年の7月に遅らせて発表するかわかりますか。計算に­7ヶ月もかかりますか?
他の国の発表を待って後出しジャンケンで1位だったという発表をするためです。だから日本が発表するときに世界一の長寿記録が確定するわけです。他の国の発表が残っていれ­ば暫定の一位にしかなりません。
その証拠に日本の平均寿命世界一を叩きだした計算公式は一切発表できません。厚労省はまったく計算などしていないからです。
日本人の実際の平均寿命は二人に一人は医者に殺される医療殺戮大国のため、推定ですが、せいぜい50〜60歳程度です。


動画は(なりすましでなければ)船瀬俊介氏自身がアップロードしており、上記引用した文章も船瀬氏自身が書いています。動画も見ましたが、「平均寿命統計は捏造」とした根拠は述べられていません。「計算に­7ヶ月もかかる」ことを疑問に思っておられるようですが、平均寿命のみならず、同時に主な年齢の平均余命、平均寿命の国際比較、死因分析、簡易生命表などが発表されています。船瀬氏が想像するように「パソコンにピーンとやればポーンと出る」(動画、3分10秒あたり)ものではありません。

平均寿命の計算式は公表されている

「日本の平均寿命世界一を叩きだした計算公式は一切発表できません」と船瀬氏は主張します。事実でしょうか。ためしに「厚生労働省 計算式 平均寿命」で検索してみましょう。数秒もかかりません。上位に厚生労働省のページ(■厚生労働省:日本人の平均余命 平成19年簡易生命表)が表示され、このページにちゃんと平均余命の式は明示されています。平均寿命は0歳における平均余命のことですから、平均余命が計算できれば平均寿命も計算できます。平均寿命の計算公式が発表されていないのではなく、単に船瀬氏に情報を探し出す能力が欠けているだけではないでしょうか。

日本人の平均寿命を「せいぜい50〜60歳程度」と船瀬氏が推定している理由は?

日本人の平均寿命を「せいぜい50〜60歳程度」と船瀬氏が推定している理由は、どうやら、船瀬氏の身のまわりでの死亡事例に基づくようです。



船瀬氏「有名人の死亡広告を見たって、半分…二人に一人は90以上ってありえない」(動画、2分40秒あたり)


有名人の死亡記事では、平均寿命よりもずっと若くして亡くなっていることが多いのは確かでしょう。しかし、それは平均寿命が捏造されているからではなく、単に若いうちに亡くなった有名人の死亡がニュースになりやすいからです。たとえば、現在テレビに出ている芸能人が亡くなったら報道されるでしょう。しかし、その芸能人が引退し30年後に亡くなったとしたらどうでしょう。よほどの大物でもない限り、報道されないのではないですか。



船瀬氏「二人に一人が90歳以上で死んでいるってさ、そんなのありえないじゃない、身のまわり見ても。(中略)私のまわりをみると私の友達ポンポン死んでいるんだから、もう。こんなこと言って申し訳ないけど。『あいつ死んだぞ』『えっ』って、同窓会に帰ると」(動画、10分17秒あたり)


船瀬氏は1950年の生まれだそうですから、現在は60歳をちょっと超えたぐらいです。船瀬氏の同窓生で平均寿命を超えて亡くなる人は現時点ではいません。単に船瀬氏の交友範囲に50〜60歳程度の人が多いため、亡くなった船瀬氏の知人に50〜60歳程度の人が多いだけではないでしょうか。

日本の平均寿命統計が捏造だとしたら

仮の話として、日本人の平均寿命が実際には50〜60歳程度であるのに、約80歳だと政府が嘘をついていたとしましょう。この仮定の話がどれだけ途方もないのか、この嘘に加担しなければならない人間の数を想像すればお分かりいただけると思います。常日頃死亡診断書を書く医師は当然に「秘密結社」に含まれるでしょうね。看護師や事務員も船瀬氏は信用していないのでしょう。

医療関係者の他には、たとえば、民間の生命保険会社は全部、この嘘に加担しなければなりません。生命保険料は生命表を元に計算されています。もし、厚生労働省が発表している生命表が実際と大きく異なり、日本人がもっと若くして死亡しているのであれば、生命保険会社は赤字になります。船瀬氏の推定が正しいとしたら、生命保険会社は予想外の保険金をバカ正直に払い続けているか、でなければ、政府とグルになって「真の」生命表を元に保険料を計算していることになります。海外資本の生命保険会社も含めて、すべての生命保険会社が秘密を守り通しているのでしょうか。

生命保険会社はそれぐらいやりそう?しかし、「秘密結社」のメンバーは生命保険会社だけではすみません。平均寿命は日本全体ではなく、市町村別にも計算され、発表されています。死亡届は役所の窓口に提出します。もし平均寿命が発表されたものと大きく異なり、実際には50〜60歳程度であったとしたら、役所の窓口の係の人がおかしいと気付くでしょう。それとも厚生労働省の統計の担当者のみならず、日本中のすべての自治体の窓口担当者がグルになっているのでしょうか。

公務員はすべて信用できない?ならば、葬儀社はどうでしょう。船瀬氏の狭い交友範囲と違って毎日のように亡くなった人に関わり合いになっています。もし平均寿命が実際には50〜60歳程度であったなら、船瀬氏よりずっと先に、葬儀社の人間が気付くはずです。葬儀社の人間がすべて例外なく「真実」に気付かないボンクラか、あるいは、すべて例外なく政府の犬であるとするなら、話は別ですが。

生命保険会社、地方公務員、葬儀社のメンバーが秘密を守らない限り、「日本人の平均寿命が実際には50〜60歳程度」という船瀬氏の推測が成り立たないことは、ごくごく一般的な常識を持っていれば理解できることです。そして何よりも、ご家族に高齢者がいらっしゃたり、あるいはご自身が高齢者である人は、船瀬氏の欺瞞がわかることでしょう。


*1:URL:http://www.youtube.com/watch?v=UpLSUAQ3S7U