NATROMのブログ

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木村盛世医師と口蹄疫

厚生労働医系技官で医師でもある木村盛世氏の著作(厚労省と新型インフルエンザ)は読んだことがある。木村盛世氏の主張に賛同はできない部分もあるし、やや危ういところもあるように思われたけれども、それでも読む価値のある本であった。また、木村盛世氏はブログやtwitterで積極的に発言している。情報を発信していることは高く評価されるべきである。ときにおかしな発言があったとしても、情報を発信しないよりましである。この点を踏まえた上でなお、最近の木村盛世氏の口蹄疫に関する発言には疑問がある。一例を挙げよう。口蹄疫の発生源について、「風に乗ってきた可能性が強い」という発言をされた*1





前回もそうだが広島などからでなく宮崎、ということは風に乗ってきた可能性が強い。


確かに、「口蹄疫ウイルスは,陸上では60km,海上では250kmもの距離を風で伝播すると指摘されている」*2。なるほど、現時点で風に乗ってきた可能性を完全に否定することはできない。そうだとしても、「広島などからでなく宮崎」ということから「風に乗ってきた可能性が強い」とする理由が不明である。大陸からやってきたとするならば、対馬や壱岐で発生したというのならばともかくとして、距離的には広島も宮崎もさほどは変わらない。さらに意味不明なことに、





「風がはこぶ」という事は当然鳥によるもの、だと理解して書いたつもりである。


とも発言された*3。空気感染するウイルスであるし、「風に乗ってきた可能性」と書かれてある以上、当然、風によるものであると私は理解した。木村盛世氏によれば、私は「奥ゆかしさも知性も」無いということになるのだろう。動衛研のサイトによれば、口蹄疫ウイルスの国際伝播の原因として、「鳥によって物理的に運ばれる」ことも記載されており、鳥による感染も可能性はあるのだろう。だったら、はじめから「鳥による感染の可能性」と書くべきである。鳥による感染だったとしても、やはり「広島などからでなく宮崎」ということからは「可能性が強い」とは言えないように思える。そもそも、「鳥によるもの」と書いたつもりが伝わらなかったことを読者の奥ゆかしさや知性の欠如のせいにするのは無理筋だ。危うい発言はこの一例だけではない。■Togetter - まとめ「口蹄疫をめぐる木村盛世厚生労働省検疫官の暴言」でまとめられているが、口蹄疫の問題点について十分に吟味した上でのこととはとても思えない発言をされている。

木村盛世氏がおかしな発言を行う理由は、口蹄疫という人間の公衆衛生とは異なる分野ゆえであると、当初は私は考えていた。木村盛世氏の専門分野である公衆衛生関係について、政府の新型インフルエンザ対策への批判には、妥当な指摘も数多くあったからだ。しかし、単に専門外であること以外にも理由がある可能性を私は疑いはじめている。木村盛世氏の主張は、政府批判、官僚批判がまずありきで、批判の理由を後付けしているだけではないだろうか。政府の新型インフルエンザ対策に不十分な点があったため、たまたま新型インフルエンザ対策批判は当を得ただけなのかもしれない。今後、木村盛世氏が、専門分野である公衆衛生の分野で政府を批判したとしても、政府の対応が正しいのに条件反射的に批判している可能性も考慮したほうがよさそうだ。私は、twitterでの木村盛世氏の発言をフォローしていたが、もはや情報源でなく、ウォッチの対象とみなしはじめている。