NATROMのブログ

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ベッドが空いてるのに平然と受け入れ拒否する病院はあるのか?

二階俊博経済産業相が、「医者のモラルの問題だ。相当の決意を持ってなったのだろうから、忙しいだの、人が足りないだのということは言い訳に過ぎない」という発言を撤回したという記事についたブクマコメント。


http://b.hatena.ne.jp/niceniko/20081114#bookmark-10817102


[政治][医療]二階さんの発言は正しいと思うけどなあ。ベッド空いてるのに平然と受け入れ拒否する病院たくさんあるんだし。舛添さんのやろうとしているシステムなんて作っても形骸化するのがオチだよ。


「舛添さんのやろうとしているシステムなんて作っても形骸化するのがオチ」という点には完全同意。「ベッド空いてるのに平然と受け入れ拒否する病院たくさんある」という点については疑問である。もしかしたらそういう病院もあるのかもしれないが、少なくとも私は知らないし、後で述べる理由から「たくさんある」とは考えにくい。ただ、id:nicenikoさんがそのように勘違いした理由については思い当たる点はある。nicenikoさんは、何度か救急で運ばれた経験から「空床があっても受け入れ拒否する病院がある」とお考えになられたようである。nicenikoさんの過去のブックマークコメントから引用する。



実際「忙しいだの、人が足りないだの」が本当の理由で受け入れ拒否している病院あるしなあ。大病院でもね。言っていることは的を得ている。

医師不足で多忙な病院多いみたいだけど、自分が入院した大手の大学病院はベッドが空いてても受け入れ拒否頻繁にしてるの見ちゃったし、聞いちゃったし、こういう病院があるのは凄いことだと思う。

忙しいのは分かるけど、ベッド空いてるのに受け入れ拒否している病院多いしね。でも抜き打ちでやらないと意味ないかも名。

ベッドが誰が見ても空いてる空床なのに、満床とか言っている病院多いんですけど。何度か救急で運ばれた経験から。でも疲れきった顔した医者は多いとも思った。


「そのベッドは空いているだろう。どこが満床なのか」と感じる患者さんがいることは理解できる。しかし、「誰が見ても空いてる空床があるのに本当は満床」ということはある。たとえば、入院患者さんが外泊しているときや、既に予約が入っているとき。新規に入院させたい患者さんが一泊入院で済むのであれば先約のあるベッドにでも入院はさせられるし、むしろそうしたほうが経営的に好ましい。だけど、退院の見込みがつかない患者さんを入院させてしまうと、今度は入院を予定していた患者さんに迷惑がかかる。





入院予定あり。よって現時点ではベッドの余裕ありません。


治療に専念する時間的余裕のある患者さんばかりではない。仕事を持つ人が入院となると、同僚や取引先に迷惑がかかる。それをアチコチに頭を下げて何とか調整して入院の算段をつけ、いざ入院しようとしたら、「急患が入ったので、予約していたベッドが埋まってしまいました。あなたの入院は2週間後に伸ばしましょう」と言われる。それでもいいですか?予定入院とは言え、医学的な理由でそれほど長くは待てない人もいる。ただでさえ、長く待ってもらっているのだ。「急患はとりあえず入院させて、後で転院させればよい」という意見もあるだろう。もちろん、大学病院でしか診れないような病態であれば、無理してでも受けることはある。しかし、どこの病院も余裕は少なく、転院交渉は困難である。この辺の事情は、■なぜ「たらい回し」が起きるのか?で詳しく論じた。

つまるところ、常に満床に近い状態を維持しておかないとペイしないようにした診療報酬削減が元凶なのだ。「ベッドが空いてるのに平然と受け入れ拒否する病院があるとしても、たくさんあるとは考えにくい」という理由もこれである。少なくとも経営的には、ベッドが空いているのなら積極的に受け入れた方が儲かる。というか、そうでもしなければ病院を維持できない。その他、空床があっても断る理由として、マンパワーや検査機器の不足、専門外などがある。これを「モラルの問題だ、受け入れろ」とするなら、低い医療レベルを許容してもらうしかない。「医療の質をあきらめる」という選択は、それはそれでありだ。ならば、今回の都立墨東病院の件については、そもそも搬送する必要はなく搬送元の病院が加療すればよかったのだ、という話になるが。