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血液型性格判断の大家・田淵幸一の華麗な戦績

今さっき知ったのだが、北京オリンピック野球日本代表の田淵ヘッド兼打撃コーチは「球界きっての血液型性格判断の大家」なのだそうである。オリンピックが終わる前に批判できればよかったのだが。


■星野熱血指導より…田淵「血液」診断野球が“えぇ!” (ZAKZAK)


北京五輪日本代表の最終メンバー24人が17日に発表されたが、血液型では、A型が10人(41.7%)と圧倒的多数。O型は7人、AB型は5人、B型は2人しかいない。となれば、鍵を握るのは首脳陣の中で唯一A型の田淵コーチ。実際、田淵コーチは球界きっての血液型性格判断の大家なのだ。


日本人平均のA型の割合は40%くらいだから、別に「A型が圧倒的多数」とは言えない。B型が少ないが、たぶん有意差はない。選手にA型が多いからといって首脳陣の中で唯一A型の田淵コーチが鍵を握るという論理展開も意味不明。



今季24盗塁の荒木、19盗塁の青木、16盗塁の川崎と俊足揃いの日本代表だが、田淵コーチは、1番打者は14盗塁の西岡をおいて他にいないと断言。「A型の西岡は神経質。あいつの場合は、新しいバッターボックスに足を入れるのでないと気が済まない。監督にもそう進言しておいたよ」と胸を張る。


打順を決めるのに、実力だけでなく血液型を参考にするとは気は確かなんだろうか。選手にも「お前はO型だからトップバッターに向いていない」とか説明するのか。選手に直接言わないとしても、マスコミに言っているということは、選手の耳にも入る。選手のモチベーション上がりまくりだネ。



さらに田淵コーチは「昔は、野村さん、森さんといった個性的なリードをするB型のキャッチャーが名捕手と言われた。しかし、阿部も、里崎もA型。最近は時代が変わり、あくまで投手を立てて気持ち良く投げさせるA型捕手の時代になった」と熱弁を振るう。その通り、「参謀タイプ」「女房役」はA型の象徴的な気質といわれる。


これはよくある血液型性格診断の誤謬である。ポジションにより血液型の偏りはあろう。すべてのポジションで血液型の分布が日本人の分布から予想された通りだったらそのほうがびっくりだ。昔はたまたまB型のキャッチャーが多かったため、「個性的なリードをするB型のキャッチャーが名捕手」などと説明をつける。血液型とポジション相性が無関係ならば、ポジションごとの血液型の偏りは、選手の世代交代によって変化する。「最近は時代が変わり、あくまで投手を立てて気持ち良く投げさせるA型捕手の時代になった」と。O型が増えても、AB型が増えても、いかようにも説明が可能である。まさしく、反証不可能な疑似科学だ。

以上が2008年7月18日の記事だ。ZAKZAKだからしょうがないと言えるが、記者も血液型性格診断に疑いを差し挟んでいない。しかし、同じZAKZAKだが、2007年8月13日の記事は、深読みすれば、もしかしたら記者はわかってて書いたのかもしれない。


■田淵、星野Jに熱“血”指導法…性格把握のヒントに (魚拓)(ZAKZAK)


合コンでは定番の話のタネとなる血液型だが、「血液型で性格がわかるなんてうそ八百。人間がわずか4タイプに分類されるはずがない」とみる人も多い。が、田淵コーチは「血液型を知ることは、性格を把握する上でヒントになる。選手に合った指導法を考える上でも欠かせない。おれはダイエー監督時代(1990−92年)からやっていた」と大まじめに話す。


ダイエーの田淵監督時代の成績は、6位、5位、4位だった。「成績不振のため1992年限りで退任した」「1990年は当時史上ワーストのチーム防御率もあり最下位になった。そのためその議員には『こんなに弱いようでは田淵監督を証人喚問しなければならない』とまで発言された」そうである*1



その血液型は、味方のアドバイスに生かすだけではない。田淵コーチは阪神チーフ打撃コーチ時代の03年、日本シリーズで対戦する王ダイエーの全選手の血液型を事前調査。敵情把握にも活用している。


ええ、覚えていますとも。4勝3敗でダイエーホークスが勝った。城島がいた。井口がいた。松中がいた(今もいるけど)。ああ、いい時代だった。

それはともかくとして、血液型性格判断の大家・田淵幸一の輝かしい戦歴に、ダイエーの監督時代、阪神チーフ打撃コーチ時代の日本シリーズに加え、北京オリンピック野球日本代表ヘッド兼打撃コーチ時代が加わった。ちゃんと覚えておいて、次のオリンピックの首脳陣を決めるときに思い出してくれ*2


*1:■田淵幸一(Wikipedeia)

*2:追記:ブクマで指摘されて気付いた。次のオリンピックは野球はなかったね