NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医師派遣会社v.s.良心的な手配師

常勤医を辞めてフリーとなって楽な条件で働くことを「ドロッポ」(ドロップアウトの意)というが、このドロッポ医のことがテレビで取り上げられたようだ。


■「日替わりで…増加するフリーの医師」(毎日放送)


インターネット上にいま、衝撃的なアルバイトサイトがある。

「日勤、1日あたり20万円」

「当直、1回あたり20万円」

そして…

「健診、1回あたり12万円」

実はこれ、非常勤の医師を募集する医師派遣会社の求人サイトだ。<リンクスタッフ・杉多保昭代表>
「1日あたりの相場は5万円前後(一般内科)、当直になると1日7万円とか10万円が相場」

医師不足が叫ばれるなか、需要が急増している非常勤医師。

この派遣会社でも非常勤医師派遣の売り上げが3年で2倍に成長した。

週3日の勤務でも1,000万円程度(一般内科)稼げることから、どこの病院にも所属せず、フリーで仕事を請け負う医師も多いという。


労働条件が劣悪な地方の某中核病院(院長が「労働基準法違反は罰則規定はないそうです」と言いやがったあの病院だ)で働いていたころは、こうした医師派遣会社のサイトを見ながら、「今の勤務先を辞めて非常勤のバイトだけにしたら年収はいくらになるか」を計算していた。1回あたり20万円なんてのはさすがになかったが、「相場」程度のバイトでも常勤のころと比較して収入は2倍ぐらいにはなる計算。しかも、非常勤だと夜中や休日に電話がかかってきたり、出勤したりしなくてすむ。

某中核病院へ勤務するようになったきっかけは、記事でも触れられていたが、いわゆる医局人事なわけですな。ここでいう医局とは大学医局のことで、トップが教授で、医局長が人事を取り仕切っている。一般の方々は、「白い巨塔」を思い浮かべていただければよい。ただ、科によっては医局の「力」には差がある。私ぐらいの年代までの医師はどこかの医局に属して、基本的には医局の人事で動くの一般的であった。人事を行う人の立場からは、「良心的な手配師」とのこと。


■世界一の日本の医療に自信と誇りを《2》 (じみ庄三郎日記)


 医局は明治以来、過疎地の医療に対し、1年行ったらまた1年代わりを派遣してきたのです。
 私は、九大の第一内科の副医局長をしていて、手配師もしていたので、あの町立病院は田舎だけど苦労している。先輩が病気だ。では1人、あそこへやろう。日本の社会だから、あの医局員はお父さん亡くなったからお金に困っているだろうから、給料が高い町立病院にやろうかとか・・・。まだ独り者だから無茶苦茶忙しい町の病院に、給料は安いけど鍛えようとか・・・。一人ひとりの個性を考えていました。良心的な手配師です。それで日本の医療を守っていたのです。    


私は手配されるほうの立場で、言っちゃなんだけど将棋の駒のような扱いをされていたので、良心的というのは美化しすぎだろうとは思うのだが、医局人事が地方医療の維持に役に立っていたというのは事実である。給料が安いくせに無茶苦茶忙しい町の病院に派遣されても、医局のバックアップと、「お勤め」の期間が過ぎれば代わりが派遣されて開放されるという確証があったから耐えられていたわけですな。しがらみで断りにくいというものある。研修のときにお世話になった指導医の先生の頼みは断りにくいよね。それで、多少の不満はありつつも現場は回っていた。

私の場合は、「ボチボチ限界っす」と医局に言ったら某中核病院から大学病院へ戻してもらえた。大学病院も勤務条件が良いとはとても言えないのだが、比較の問題。「もうちょっと頑張れ」なんて言われてたら、多分ドロッポして「週3日の勤務で1,000万円程度」を稼いでいたであろう。次の人事はやはり多忙な某市民病院へ行けと言われたが断った。教授は憮然としていたが、教授個人には恩はないし、医局を追い出されたってドロッポすればいいだけだ。医局が弱体化したから医師派遣業が繁盛するのか、医師派遣業が繁盛しているから医局が弱体化したのか…