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DNA鑑定簡易キットの記事

■実の父親が分かるDNA鑑定簡易キット、米で発売(AFP)


 鑑定方法はキットに含まれている綿棒で唾液(だえき)を採取し、アイデンティジーンの試験所へ送るだけ。結果は3-5営業日後に郵送、Eメールで受け取れる。セキュリティ保護されたウェブサイトでも確認することができる。鑑定にはキット代とは別に119ドル(約1万2000円)が必要。
 アイデンティジーンによると、前年11月から試験的に発売されているカリフォルニア(California)州、ワシントン(Washington)州、オレゴン(Oregon)州では問い合わせが殺到し、売れ行きは好調だという。
 購入者は、自分の両親を探したいという人々や、子どもの父親を確かめたいという女性などだ。出産前に胎内の子どもの実の父親が誰なのか確認したいという女性もいる。
 同キットは処方箋なしで販売されるため、法廷証拠としては認められないという。裁判で証拠使用が認められているDNA検査は、より精度が高いが検査費用も高額となる。


いろいろと意味不明な部分があるので調べてみた。記事の元となったキットの米国のサイトが■DNA Test Kits In Stores。キットの値段が29.99ドル、検査代が119ドル、合計148.99ドル。安い。99.99%の精度であるとのこと。日本語記事では「キットに含まれている綿棒で唾液(だえき)を採取し」とあったが、米国サイトでは"Collect DNA cheek cell samples(頬の細胞からDNAサンプルを採取する)"とある。唾液にだってDNAは含まれているだろうけど、細胞成分を使用したほうが確実。血液でもいいけど、頬の内側の粘膜の細胞を使えば針を使わずにすむ。なぜ日本語記事で「唾液」になったのか意味不明。

「出産前に胎内の子どもの実の父親が誰なのか確認したい」という部分も意味不明。キットでは胎児の細胞は採取できないだろ。胎児のDNA鑑定を行なう場合、通常は羊水を採取する。医師でないとできない。針を刺すわけだから、当然リスクを伴う。記事を書いた人の知識不足であろう。ちなみに、法的証拠として使いたい場合は、Identigene社では"Legal DNA Tests"を399ドルでやってもらえる。精度については詳しくは書いていない。高価なのは精度のためのコストではなく、DNAサンプルを採取する際の身分の確認のための人件費のためだと思われる。

ドラッグストアで販売しているかどうかはともかく、親子鑑定のためのキットは以前より販売されている。日本でも既に同様のサービスはある。だいたい3万円前後のようである。今後、どんどん安くなるだろう。