NATROMのブログ

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O型は肉を食え?血液型別ダイエットは根拠なし

やせる方法にも科学的根拠のあるものからトンデモなものまでいろいろだ。たとえば血液型別ダイエットなんてものまである。ちょいとGoogle検索してみたら、まあ予想できるように上位はほとんど肯定的なページである。中には科学的な考証をしたページもあってもよかろうとこのエントリーを書いてみた(どうか上位に表示されますように)。血液型別ダイエットは、他にも似たようなものがあるようだが、ピーター・J・ダダモ氏(Peter J. D'Adamo)が提唱したものが有名である。ネット上ではAll Aboutのページがまとまっている。


■O型は肉を食え!A型は米を食え! ダダモ博士の血液型ダイエット!(All About)*1


ダダモ氏は自然療法医を名乗っている。自然療法とは、あまり馴染みがないかもしれないが、ガードナーの名著、奇妙な科学においても同種療法(ホメオパシー)に並んで紹介されている由緒正しい代替療法である。代替療法もピンキリだけど、血液型別ダイエットについては、「父の代からの自然療法の研究結果と臨床経験から、血液型によって、かかりやすい病気も、とるべき食事も、運動の種類も違うという結論に達しました(All About)」とあるわりに、少なくとも検索にかかるような医学論文としては発表されていないとこからみて、かなり怪しげな部類に入る。

ダダモ氏の理論はさほど難解ではない(一般受けするには、理論の正確さよりも分かりやすさのほうが重要だ)。ダダモ氏によれば、血液型別に先祖が異なり、ゆえに体質に合う食べ物が異なるとのこと。O型は最も古い血液型であり、当時の狩猟生活の名残をその消化器官、免疫系に残しているため、肉食が適している、といった具合。他には、A型は農耕民族の子孫であり野菜や穀物を多く摂ると良い、B型は遊牧民族の子孫で乳製品が体に合う、とのこと。さて、ダダモ氏による血液型別ダイエットの問題点を、簡単に2点のみ指摘する。


・O型は最も古い血液型ではない


ヒトと近縁の種のDNAを調べることで、あるいはヒト集団におけるDNAを調べることで、ABO式血液型遺伝子の系統樹が推測できる。ヒト集団においては、A対立遺伝子がもっとも古い(斎藤成也による「霊長類におけるABO血液型遺伝子の系図」を参照)。よって、ダダモ氏の「O型は最も古い血液型であり狩猟民族の名残を残している」という主張は誤りである。もうこれだけでダダモ氏の主張は崩壊するが、実はDNAなど調べなくても、基本的な遺伝学の知識のみで血液型別ダイエットがトンデモであると言える。


・ダイエットに関係する遺伝子が、都合よくABO式血液型の遺伝子の近傍にあるとは限らない


よしんば仮の話として、分子遺伝学的な証拠がダダモ氏の主張と矛盾しなかったとしよう。O対立遺伝子は狩猟民族由来で、A対立遺伝子は農耕民族由来だと仮定する。ならば、ダダモ氏の主張は成立するか?ほとんど成立しないだろうというのが、遺伝学からの答え。狩猟民族の祖先が、O対立遺伝子および肉食に適した遺伝子*2のセットを持っていたとしても、その遺伝子のセットは世代が下るにつれ分離し、混ぜ合わされる。現代人のO型の人の全ゲノムのうち、何割かは狩猟民族由来であろう。しかし、それはA型の人だって同じことである。ABO式血液型の遺伝子そのもの、あるいはそのごく近傍の遺伝子が肉食に適した遺伝子であるという幸運でもない限り、現代人のO型の人が肉食向きの体質を持つということはない。

本当にダダモ氏が自説を科学的に証明したければ、たとえば、O型とそれ以外の血液型の人を多数集め、肉を多めに食べさせてどうなるのか比較してみる、といった研究を行うべきであった。しかし、ダダモ氏はそのような手間はかけなかったようだ。少なくとも論文にはしていない。科学的な証明よりも、本の売り上げのほうが大事だとすれば、正しい態度である。ネット上では「科学的証明された事実をもとにしてある」などという意見もあったが、臨床的な研究がない以上、血液型別ダイエットには科学的根拠はないと断言してよい。科学的根拠がないことを承知の上で行う分には、自己責任でどうぞ。


*1:URL:http://allabout.co.jp/fashion/diet/closeup/CU20020127A/

*2:肉食に適した遺伝子など存在しないとしたら、そもそもO型には肉食が適しているという話は成立しない