NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ヤブ医者マップは役に立たない

■ 手加減なし……「全国ヤブ医者マップ」に体験コメントが殺到中(やじうまWatch)


3月にYahoo! JAPANが公開した「ワイワイマップ」のベータ版は、ユーザーがテーマごとに作成した地図上に、地域の情報をコメントとして大勢で書き込めるサービスだ。ここで今、人気のあるテーマが「全国ヤブ医者マップ〜こんなトコ二度と来るか!〜」だ。病院で受診してイヤな思いをした経験が、ここに集まっている。どのコメントも相当手厳しい。今まで他のメディアでは見られなかった情報ではあるけれど、これは過激だ。


医療の質を患者が判断するのは困難である。たとえば、平均的な医師が治療すれば90%の確率で治癒する疾患を、95%の確率で治せる名医がいたとしよう。名医でも治せない5%の患者はいるわけである。治らなかった患者側からみて、主治医が名医か、平均的な医師か、あるいはヤブなのかは判断できない。「90%が治るはずの病気を治せなかった」と、名医をヤブ医者マップに登録することだってある。

実際の診療では一律90%で治るなどありえないわけで、年齢や進行度や合併症などで治癒確率は異なる。治り難いと思われる症例は高次病院に紹介され、多くの医師から信頼される病院/医師にほど、難治例が集まる。患者側からの自己申告でヤブ医師マップを作ると、簡単な症例のみを診る医師は登録されず、難治例を診る機会の多い医師ほど登録されやすくなるだろう。

実際の診療やネットで見聞きする「あの医者は酷い」という声を聞くに、一部にはなるほどもっともであるというものもあるが、「それのどこが酷いの?」というものが多い。最近聞いたのでは、インフルエンザに対してタミフルを処方しようとした「酷い医者」にあたってしまったため、病院をハシゴして3件目で「抗生物質を処方してもらった」という例。言うまでもないがインフルエンザに抗生物質は無効である。この患者様の主観では、3件目の病院がいい病院で、1件目がヤブということになる*1

他にも、「発病初期でインフルエンザと診断できなかったからヤブ」「末期がんを助けられなかったからヤブ」「わざわざ遠くから話を聞きに来たのに説明がない!*2」「説明のないまま気管内挿管された!*3」。ええ、ええ、いくらでもありますとも。情報の非対称性がある分野では、顧客の声を集めてもあまり役に立たない。役に立つのは、せいぜい、病室がきれいとか、食事がうまいとか、待ち時間が少ないとか言う情報ぐらいであろう。


2ちゃんねるでは「相当手厳しい」コメントが。



893 名前:卵の名無しさん 投稿日:2007/04/17(火)
勤務医としてはこれを見て来なくなる患者が増えるとありがたい
どうせ給料は一緒だし
こういうサイトに感化される患者層は権利意識ばかり肥大したDQNが多い

896 名前:卵の名無しさん 投稿日:2007/04/17(火) 12:22:13
>>893
公立病院勤務だったら、自演して患者来ないように仕向けるかもw

*1:おそらく、3件目は不勉強ゆえにインフルエンザに抗生物質を処方したのではなく、分かった上で「患者様に」「サービスとして」処方したのであろう

*2:アポイントなしでイキナリ主治医に話を聞きにいったのだ。もちろん近くの家族には説明済み

*3:「助けるためになら何でもしてください」と別の家族が言ったのだ