NATROMのブログ

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新型インフルエンザ


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■新型インフルエンザ―世界がふるえる日(山本太郎 著)


2006年9月第一刷。最近、インフルエンザ絡みの話が話題になったこともあって読んでみた。比較的平易に書かれており読みやすく、内容も信頼できる。内容はタイトルの通り、新型インフルエンザについて。タミフルの副作用の問題にはほとんど触れられていないので念のため。季節性のインフルエンザの流行は高齢者に(あるいは若年者にきわめて稀に)死亡者を出すにしろ、過去の世界的流行(パンデミック)と比較すればほとんど問題にならない。1918年から流行が始まった「スペイン風邪」は、少なくとも4000万人以上の死者を出したといわれる(P25)。現在では、(少なくとも先進諸国では)栄養状態の改善や医療の進歩がある一方、人口の過密や交通手段の発展による伝染速度の上昇があり、もし新型インフルエンザの流行が起これば、どれくらいの被害が起こるのか予測は困難である。国連のインフルエンザ調整官のD・ナバロ博士による推計では、予測死亡者数は500万〜1億5000万人とのことである(P21)。

この本では、インフルエンザウイルスに関する基本的な知識、過去の世界的なインフルエンザ流行、現在の対策などが述べられている。1918年に世界的流行が始まったインフルエンザをなぜスペイン風邪と呼ぶか?


しかし、一つの説として、第一次世界大戦に参戦していなかったスペインが戦時下の情報統制を行なわず、自国でのインフルエンザ発生を隠蔽しなかったからだという説がある。確かに、戦場に送られた兵士が、実際の戦闘ではなく病気でバタバタと倒れているという事態は、戦争に参加している国々にとって最も国民に知られたくない情報の一つであったに違いない。(中略)それにしても、それが故に、当時のインフルエンザがいまだに「スペイン風邪」と通称されるのはスペインにとってははなはだ迷惑なことに違いないと思う。(P52)

へえへえへえへえ。

パンデミック対策については、トリとの接触を避ける、マスク・うがい・手洗いの励行、感染の監視・警戒システムの構築、抗ウイルス薬の備蓄、いったん発生すれば移動の制限や抗ウイルス薬の予防投与による封じ込めでワクチン生産のための時間をかせぐ、といったところ。ここでいう抗ウイルス薬とはタミフルのことである。パンデミックに備えたタミフル備蓄に対するスタンスが、慎重論者と単なる馬鹿を区別する良い指標となるだろう。季節性のインフルエンザ流行にはタミフル使用を控えようというのは、合理的な慎重論として理解できる。タミフル備蓄を否定したり陰謀扱いするのは単なる馬鹿。合理的な慎重論者はタミフル備蓄は否定しないであろう。