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ブドウ糖がグルコースになる

「食育」の理念には賛同するけれども、食育を勧めている人たちの中にはちょっと科学的知識がアヤシゲな人もいるのが気になる。


■脇清美さんに聞く…食生活の「自律」が大切(読売)


朝食に穀類が望ましいのは、その中に含まれるブドウ糖が、体内で脳の栄養源となるグルコースになるからだ。しかもグルコースは、1日の必要量の約3分の1しか体内に蓄積できないので、3食、食べなければならない。

脇清美さんの説明が元々アヤシゲだったのか、それとも記事にする段階でアヤシゲになったのかはわからない。それにしても、「ブドウ糖が体内でグルコースになる」というのはいくらなんでもあんまりだろう。少なくとも、グルコースを日本語で何というのか知らない記者が食育についての記事を書き、チェックできないままその記事が大新聞の紙面に載ってしまったというのは確か。うどんが一玉だけの弁当を持ってくる幼稚園児の存在以上に問題だと私は思う。

「グルコースは、1日の必要量の約3分の1しか体内に蓄積できないので、3食、食べなければならない」というのも誤り。グルコースそのものは蓄積できないが、グルコースが重合したグリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯蔵される。血中のグルコースが不足しても、グリコーゲンがグルコースに分解されることによって補給される。少なくとも、グルコースの代謝だけを問題にするのであれば、3食食べなければならないということはない。

1日3食必要であるという、明確なエビデンスはおそらくないと思う。ヒトが進化してきた環境ではおそらく3食は食べていなかったわけで、1日3食というのは不自然である。「糖尿病などの生活習慣病の原因の一つに1日3食という食習慣があり、1日2食で健康になる」という主張があるくらいだ。1日2食健康法も根拠はないが、必要な栄養素をバランスよく摂取できるのなら1日2食でもさほど問題ないように私は思う。しかしながら、現代の社会環境下で、特に子供であれば、1日2食ではバランスよい栄養素の摂取は難しいのではないか*1

この意味で、ちゃんとした朝食を摂る習慣がよい食生活につながるのは、明らかだろう。「朝ごはんを食べよう」というスローガンは正しい。しかし、グルコース補給を朝食が必要な理由としてしまうと、穀物ではなく、砂糖でもお菓子でもよいことになる。むしろ、グルコース補給目的でいえば、砂糖、すなわちショ糖のほうが穀物より勝る。「グルコースが必要ならお菓子を食べればいいじゃない」と言われたら、記者はどのように反論するのだろう。



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*1:肉を食べない菜食主義者でも必須アミノ酸を必要量摂取するこはできるが、肉も食べればもっと容易に摂取できるし、菜食主義が特に健康的であるわけではないというのに似ている