NATROMのブログ

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数学パズル


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■パズルでめぐる奇妙な数学ワールド  イアン・スチュアート (著)、伊藤文英 (訳)

数学パズルの本って、たいがいはどっかで見たようなパズルの寄せ集めだったりするのだけど、この本は違う。どの章もオリジナリティにあふれている。見たことがあると思っても、日経サイエンスでイアン・スチュアートが連載していたものだった。連載時とまったく同じではなく、加筆、訂正されているようだ。

全部で20章あり、当然ながら難しいものも、比較的易しいものもある。一例として、12章の「恨みっこなしの山分けの方法」では、4人の泥棒が、戦利品を公平に(「等分保証で恨みっこなしに」)、有限回の手順で(無限に時間をかけていたら警察がやってくる!)分ける方法について議論する。2人での手順はよく知られている。子供のころ、父が買ってきた多胡輝の「頭の体操」に、2人の酒飲みが形の異なる容器に、両者から文句が出ないよう分配するパズルが出題されていたのを記憶している。まず、片方の酒飲みが「どちらを選んでも文句ない」ように酒を注ぎ、もう片方がどちらか好きなほうをとればよい。

これが3人にならどうか。私は、もうここでお手上げ。「等分保証」、つまり、各人が主観で平均以上の分け前をもらったと考えるという条件を満たす手順でも結構複雑だ。「恨みっこなし」の分配とは、各人が、他のどの人の分け前よりも自分の分け前が大きいか等しいと主観的に考えるような分配である。「恨みっこなし」の条件を満たしていれば、必ず「等分保証」の条件は満たしている。3人での「恨みっこなし」の分配手順の答えが載っているが、激しく複雑だ。引用する気にはまったくならない。3人での手順は、1960年代に考え出され、「数学パズルの愛好家のあいだでひそかに伝えられていった」そうである。ひそかにかよ。

4人での「恨みっこなし」の有限な分配手順は、数年前に完成され、その手順も紹介されているのだが、私にはもはや理解することは不可能である。かような分配手順は、数年前までは、「つねに『存在』することはわかっていたが、それを有限界のステップで実現する手順を誰も考えつかなかった」そうである。誰も考えついていないのに、存在することはわかっているというのは奇妙な感じがするのだが、数学ってこんなものだよな。