NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

マラケシュの贋化石


cover

■マラケシュの贋化石 スティーヴン・ジェイ グールド (著), 渡辺 政隆 (訳)

グールドの新刊。といっても去年の11月出版だけど。いつもどおりのスタイルのエッセイ集。話がくどくて読むのに時間がかかるが、それもグールドの味。「マラケシュ」とはモロッコの都市のこと。マラケシュで売られている贋造化石をからめて、18世紀に贋化石に騙されたべリンガーを論じる。通説では、生物だけではなく星や太陽をかたどった化石やヘブライ語の化石、しまいに自分の名前が書かれた化石を発見するにいたって学生に騙されていたことに気付いたとなっている。しかし、実際の事件は複雑で通説とは異なっている(グールドが言及するぐらいだからそうなのだ)。

他、多くの話題を扱っているが、ここで紹介できるほど読み込んでいないので、代わりにいくつかトリビアを紹介する。こないだ、恐竜博で見てきたティラノサウルスの「スー」、オークションにかけられてシカゴ大学のフィールド博物館が落札したのだが、その資金を提供したのはマクドナルドである(1章)。(幸い、恐竜博ではハンバーガーは売っていなかった)。

ラボアジェは堆積に関する地質学の論文を書いた(5章)。ラボアジェは酸素の命名者で、もっとも有名な化学者の一人。チャールズ・バベッジはナポリの遺跡のフジツボの殻の跡などから沈降と隆起について調査した(7章)。バベッジは最初のコンピュータの設計者と言われている。まあ、昔の科学者にはマルチな才能を持っていた人が多いので不思議はない。J・B・S・ホールデンは毒ガスの研究をした(20章)。ホールデンは集団遺伝学の創始者の一人で、「いとこ8人か兄弟2人の命のためなら、私はいつでも命を投げ出す用意がある」と言ったとされる。20世紀の科学者では珍しいのではないか。

訳者あとがきによれば、エッセイ集が最後の1冊と、「進化理論の構造」という大著が翻訳中であるとのこと。グールドが亡くなってからもう3年も経つのか。