NATROMのブログ

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CT画像とエコー画像の区別もできないシモンチーニ氏のウェブサイト

インチキな治療法の提唱者に「なぜ論文を書いて発表しないのか?」と尋ねると、たいていは「製薬会社などの既得利益を守る集団が圧力をかけて論文掲載を阻止している」といった反論が返ってくる。安価で効果のある治療法が周知されると薬が売れなくなって困る連中がいるのだそうだ。世界中のすべての医学雑誌に影響力を及ぼす巨大な権力が存在しているなど典型的な陰謀論であるが、よしんば百歩譲ってそのような陰謀が存在するとして、掲載を阻止されたという論文を公開すればいいだけだ。出版してもいいし、今だったらウェブに公開すればほとんどコストはかからない。

しかし、いったいどういう理由からなのか、彼らの出版物やウェブサイトにまともな論文が載ることはない。載るのは「詐欺師が医学知識の無い一般人を騙そうとした」もしくは「書いた本人も医学知識について無知である」という論文まがいのものだ。きちんとした情報を提示すれば、他の多くの医師からの協力が得られるかもしれないのにね。

さて、「8月26日にDr.Simoncini氏の特別講演が開催される」*1。Simoncini(シモンチーニ)氏は、■癌は真菌であり、重炭酸ナトリウムで治療可能と主張している人である。イタリアの医師だったが、癌の治療法を発明し「医師や医薬品会社・学会にとって莫大な売り上げに対し損害与える危険な存在」であった結果、ドクターライセンスを剥奪されたのだそうだ。日本滞在中にシモンチーニ氏自身への個人相談が可能とのことである。





ご相談料金    148,000円


シモンチーニ氏の治療法に効果があるとする論文は存在しない。製薬会社の圧力のせいで医学雑誌に論文が載らないのかもしれないネ。まあそうだとしても、ウェブサイトに症例報告を載せることぐらいはできるはずだ。「炭酸水素ナトリウム投与で腫瘍塊が頻繁に飛躍的な退縮することを表す」ケースが紹介されていた。





炭酸水素ナトリウム投与で腫瘍塊が頻繁に飛躍的な退縮することを表す


いろいろツッコミどころがあるけど、提示されているCT画像では10 cm超の大きな肝癌は認められない*2。そもそも「超音波検査による」のなら超音波(エコー)検査の画像を出せばいいのに。というか、英語のサイトを見に行ったら、CT画像をエコー検査の画像だとしていた。





"as shown by ecographic scan"とある。


つまり、Simoncini Cancer Center(シモンチーニがんセンター)のサイトをつくった人は、「デタラメを載せても顧客はどうせわからないだろう」とたかをくくっているか、CT画像とエコー画像の区別がつかないぐらい医学について無知か(あるいはその両方)であろう。CT画像とエコー画像の区別もつかない人のつくったサイトの他の医学的な記述も信用するべきではない。さすがにサイトを作ったのはシモンチーニ氏本人ではないだろうが、ご自分のサイトのチェックもしていないわけである(チェックしていてアレという可能性もあるけど)。

インチキ治療者が論文を書かない本当の理由は、まともな論文を書く能力の欠如である。彼らは、専門家からは逃げて、医学知識のないカモを騙すための「症例提示」や動画の紹介だけを行う。彼らが本当に患者さんの役に立ちたいと願うのであれば、他の専門家から検証されることを恐れるはずがない。


*1:URL:http://www.simoncinicc.com/。リンクは張らない

*2:肝右葉の低吸収域はたぶんラジオ焼灼後。後から考えると、おそらくcase 2の画像であろう。