NATROMのブログ

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ホメオパシー訴訟の和解がもたらした最大の成果

山口市助産師ビタミンK不投与事件における、助産師と母親の和解およびその報道(■山口助産師ビタミンK不投与事件 「母親と助産師和解」と朝日新聞でを参照)について、日本ホメオパシー医学協会がコメントしている。この訴訟および和解がもたらした最大の成果は、日本ホメオパシー医学協会から、


■日本ホメオパシー医学協会 12月22日付けasahi.comニュース 社会裁判記事(伊藤和行記者)に報じられた記事について日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)よりコメントします。*1


ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはなりません。


という言質を明確に引き出したことにあると私は考える。このことで、日本ホメオパシー医学協会のせいでビタミンK欠乏性出血の危険にさらされる赤ちゃんはいなくなる。原告のおかげで、他の赤ちゃんの命が救われた。もう少し早い段階から、「ホメオパシーのレメディーはビタミンK2のシロップの代用にならない」と明言されていれば、原告の子も死ななかっただろう。

私の知る限りにおいて、日本ホメオパシー医学協会が、「ホメオパシーのレメディーはビタミンK2のシロップの代用にならない」と明言したことは初めてである。というか、以前は、レメディはビタミンK2のシロップの代わりになる、あるいはもっと積極的に、ビタミンK2のシロップは有害だから代わりにレメディを使えと、言っていた。以前も紹介したことがあるが、大事なことなので何度も引用しよう([ ]内と、強調は引用者による)。


■ホメオパシー 体験談紹介 私は、1歳10ヶ月の娘を体外受精、現在妊娠6ヶ月の子を長女の時の凍結胚移植で授かりました。*2


[投稿者]それと、出産後K2シロップを与えたくないので、そのレメディーももらったのですが、これはもし産院でK2シロップを与えなくても赤ちゃんに与えた方がいいのでしょうか?センターに問い合わせればいいのですが、どなたかの参考にもなればと思い質問させてもらいました。


村上先生
[中略]それとK2シロップの件ですが、産院で与えなくてもいいのであればその代わりにそのレメディーを与えていただいてもかまいません。いずれの場合もレメディーをくださった方にご相談やサポートをしていただけるとご安心かと思います。


おい、村上先生。ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはならないんだぞ。



由井寅子著、「ホメオパシー的妊娠と出産」、ホメオパシー出版、67ページ 鴫原操助産師による章


生まれた翌日、退院の日、1カ月検診、この3回、赤ちゃんにK2シロップを飲ませていますよね。これは、頭蓋内出血とか、出血傾向の予防のためなのです。それで、ビタミン剤の実物の投与があまりよくないと思うので、私はレメディーにして使っています


おい、鴫原助産師。ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはならないんだぞ。



由井寅子著、「ホメオパシー的妊娠と出産」、ホメオパシー出版、36ページ 由井寅子氏による章


(引用者注:赤ちゃんに)血液凝固のためにビタミンKを注射したりしますが、それをやると一足飛びにがんマヤズムが立ち上がるし、逆に出血が止まらなくなることもあるのです。そして難治の黄疸になることもあります。ホメオパシーにもビタミンKのレメディー(Vitamin-K)はありますから、それを使っていただきたいと思います。


おい、由井寅子氏。ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはならないんだぞ。わかってんのか。


日本ホメオパシー医学協会は、母親が「できるだけ現代医学や薬剤の介入のないお産を望んでいると思っていた」と主張している。まあ、その通りなのかもしれない。だとして、なぜ母親がそのようなお産を望んでいたのか?その一因は、上記引用したような、あたかも「ビタミンKの実薬に害があり、レメディがその代わりになる」といった、一連の日本ホメオパシー医学協会の(医学的に不適切な)主張にあるのではないか。

仮に母親が薬剤の介入のないお産を望んだとしても、助産師にはそのリスクを説明する義務がある*3。日本ホメオパシー医学協会は、助産師は説明したと主張している。しかし、上記引用した日本ホメオパシー医学協会の説明を受けてきた助産師が、はたして医学的に正しい説明をしたかどうか、そもそも、その能力があったかどうかが疑わしい。「ビタミン剤の実物の投与があまりよくないと思うので、私はレメディーにして使っています」などという説明を聞いて、「いやいや、それはないから。レメディはビタミンKの代わりにならないから」と考えることができるのなら、そもそも日本ホメオパシー医学協会のホメオパスにならないだろう。

「ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはなりません」と明言したことについては、日本ホメオパシー医学協会を評価する。しかし、過去の主張との整合性についても説明をするべきだ。方針転換をしたのであれば、そのことも明言するべきだ。また、ホメオパシーのレメディは、予防接種の代用にもならなければ、吸入ステロイドの代用にもならなければ、抗生物質の代用にもならないことについても明言していただきたい。


*1:URL:http://www.jphma.org/About_homoe/jphma_answer_20101222.html

*2:URL:http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?no=1342&reno=no&oya=1342&mode=msgview&list=new

*3:■自己決定権、親権の及ぶ範囲、医療専門職による説明義務を考えるを参照