NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

毎日新聞の石田宗久記者が良質な記事を書いている件

■問題点の概観:Chromeplated Rat経由で、毎日新聞まいまいクラブの「代替医療は玉石混交」という記事を知った。代替医療は玉石混交であり、「事実上、野放し」になっている点を批判的に紹介している。2006年、つまり、4年前の記事であるが、民主党政権が代替医療に好意的である今こそ、多くの人に読まれるべきであると考える。リンク先で全文が読めるが、少し引用しよう。


■代替医療は玉石混交=石田宗久(西部経済部)(毎日新聞まいまいクラブ)


 代替医療というより“オカルト医療”というべきケースも取材した。福岡市の歯科医は「万病の原因は歯にある」と主張し現代医学を非難。一般の歯科で使われる金属は有害だとして取り除き、「独自開発」という触れ込みの金合金と交換してかみ合わせを調整する「歯臓(はぞう)治療」で全身疾患を治すと豪語する。さらに、患者は頭部かららせん状のエネルギーを放射し「見つめるだけで水を浄化する」超能力を得られると言う。患者の苦情を受けて福岡市は「説明が不十分だ」として歯科医を医療法に基づき指導したが、歯科医は自身を、地動説で弾圧されたガリレオに例えて治療を続けている。
 また、気功指導者でもある佐賀市の医師は「ゼロ・サーチ」と呼ぶ実態不明の自作機器で「気」の流れを感じ、疾患の原因、状態を推定。漢方薬を投与して治療しているという。さらに医療機器としての承認がないのに、ゼロ・サーチを妻の経営する会社を通じて流通させたため、佐賀県が薬事法に抵触する疑いがあるとして指導した。


医師法違反や薬事法違反で逮捕された事例ならともかく、行政による指導の段階で批判的な記事を書くのは、新聞社としてもリスクがあるだろう。ここまで踏み込んだ記事を書くのは勇気がいったと思う。ちなみに、「歯臓(はぞう)治療」を行っているのはトンデモ本大賞も取った村津和正氏で、「ゼロ・サーチ」のほうは矢山利彦氏である。どちらの件でも行政は診療内容の評価までは行わず、「指導」に留まったが、これは仕方がない。「医療」の内容の評価は行政の手に余る。医療事故を評価する第三者機関ができれば、代替療法についても評価可能になるかもしれないが、現在のところは、司法に頼るしかない。



 医療の選択は患者の自由で自己責任だが、選択の前提には、治療する側による適正な情報開示と説明が不可欠だ。知識の質と量で圧倒的に優位な医師らに裏切られた患者はどうすればよいのか。現状では訴訟を起こすか告訴するしかない。患者の中には闘病に疲れ、気力を失って泣き寝入りする人もいる。実際、佐賀の医師を受診したがん患者は満足な治療も受けられず、後悔しながら死亡した。


これから代替医療に頼ろうかと考える方は、こういう事例もあることを念頭に置いていただきたい。「死人に口なし」のため、そういう声はなかなか聞こえてこない。代替医療を受けるのなら、せめて自衛のために、説明された内容を記録に取っておくことをお勧めする。記事は、「今、行政には代替医療の質を検証する権限も能力もない。患者の保護、救済制度を整える時が来ていると強く感じる」と締めくくる。

毎日新聞にも関わらず、きわめて良い記事である。記事の良し悪しは記者個人の能力に左右されるのであろう。この記事を書いた「石田宗久」という名前に見覚えがあった、というか、ごく最近見たことがあると思ったが、「言霊(ことだま)大実験」に批判的な記事を書いた記者であった。宮崎県の中学校で、『ミカンに「ありがとう」「死ね」と話し掛け、変化の有無を観察する「言霊(ことだま)大実験」』が行われたことを批判的に紹介している。記事では明示されていないが、この実験がニセ科学の代表例である「水からの伝言」に影響されていることは明らかである。菊池誠教授のコメントを取っているところがポイントが高い。


■25時:言霊とミカン /宮崎 - 毎日jp(毎日新聞)


 大阪大の菊池誠教授(物理学)も「ミカンはただの物質で、言葉の影響を受けるとは考えられない。少数での実験結果は偶然に左右される。気持ちはわかるが勇み足だ」と疑問視する。

 子供の理科離れが指摘されるなか、真偽不明の事柄をあたかも事実のように扱うことには違和感がある。心に平穏を与える宗教やおとぎ話を否定はしないが、世間には科学や善意のふりをしたまがい物が数多くあるからだ。

 病気や美容への効果をうたう商品やサービスを巡る詐欺的商法は後を絶たない。中学生も数年後には社会人だ。「愛の言霊パワーを封印した限定商品をわずか10万円で」と勧められた時、冷静に判断できるか。健全な批判精神を養うことも、教育には必要ではないだろうか。【石田宗久】


石田宗久記者が、その他に記事を書いていないか調べてみた。取材した結果を記述しているだけで記者の考えが書かれているわけではないが、ディプロマミル(学位商法)の記事を発見した。毎日新聞の原文に当たれなかったため、記事を引用しているブログのエントリーをリンクする→■学歴汚染(ディプロマミル=Diploma Mill=学位称号販売機関による被害、弊害) : 熊本大学教授非認定博士号使用に対する熊本大学の対応へ高まる批判の声

新聞記事が扱う分野は多岐にわたる。新聞記者のすべてが、医学や科学について詳しくなることはできない。ならば、せめて、個々の記者がそれぞれ得意分野を持ち、その分野に関しては信頼できる記事を書いてほしい。網羅的に調べたわけではないが、石田宗久記者の書いた医学や科学の記事は信頼できそうだ(他の記者の記事が悪すぎるのかも知れないが…)。もし毎日新聞が統合医療についての社説を書くのであれば、石田宗久記者が書いたものを私は読みたい。


毎日新聞の残念な記事を扱ったエントリー

■化学物質過敏症の女性に障害年金支給
■新聞記事比較 タミフル異常死/肺塞栓
■胎内記憶
■遺伝子の起こし方 by 村上和雄


また、毎日新聞北海道版では、山田寿彦記者により牛乳有害説や千島学説や船瀬俊介の主張が取り上げられたことがある。■毎日新聞もここまで落ちたか・・・(粘る稀なガン患者)に詳しい。