NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ホメオパシーに予算を割くべきか

代替医療のトリック」で語られているテーマは幅広く、一つや二つのエントリーでは言い尽せない。このエントリーでは、「代替医療にどれくらい研究資金をつぎ込むべきか。どの代替医療が研究に値するのか」という問題を考えてみたい。「代替医療のトリック」の献辞は、チャールズ皇太子に対して捧げられている。チャールズ皇太子は代替医療に好意的で、「代替医療にもっと研究資金を」と訴えてきた(P305)。一方で、医療研究者の多くは代替医療の効果に懐疑的だった。多くの研究がなされたが、現在得られている科学的証拠によれば、宣伝されているほどの効果は代替医療にないことが明らかになった。

研究結果がフィードバックされる、つまり、たとえばホメオパシーが無効であるという研究によって人々がホメオパシーに無駄なコストをかけないようになるのであれば、研究は無駄ではなかったと言えるだろう。しかしながら、ホメオパシーは無効であるという研究成果はホメオパシー業界にたいした影響を与えていないように見える。研究に使える資金は限られており、代替医療研究に使われた資金は、他のもっと有望な医療を検証することに使うこともできたはずだ。代替医療にどこまで研究資金をつぎ込むか、という問題は、他人事ではない。民主党は、代替医療に好意的だ。


■統合医療の推進、国会で質疑 鳩山首相「真剣に検討、推進していきたい」:Net-IB|九州企業特報|データ・マックス


 長妻厚労相は、厚労省内で統合医療に係る部署が「大臣官房」、医政局の「医事課」、「経済課」、「研究開発振興課」、保健局の「医療課」など、ほかにも細分されている事実を明かしたうえで、今後は一本化していく意向を示した。
 また、ホメオパシーをはじめとしたさまざまな代替医療について、本年度の予算で10億円以上の予算を計上し、プロジェクトチームを発足すること明言した。プロジェクトチームでは今後、具体的な研究について支援する。
 山根議員は、統合医療に欠かせないのが科学的な根拠、有効性、安全性などのエビデンスであると主張。現在、九州大学・東京大学・東北大学などを中心にエビデンスの蓄積に努めている現状を紹介する一方で、統合医療に携わる学会などが予算的に厳しい状況にあることも併せて紹介。今後は国が積極的に関わって、エビデンスの蓄積に協力することを要請し、結果的にそのことがまやかし的な代替医療を医療界から駆逐することになると言外にほのめかした。対する長妻大臣は、「国としても(補助金の交付というかたちで)これまでに蓄積されたエビデンスを一元化し、検証していきたい」と答弁した。


「事業仕分け」と称して、科学研究の予算が削減されたのは記憶に新しい。国家予算には限りはあるのだから、無駄なものや、不要不急の研究費が削られるのは仕方がない。しかし、一方で、ホメオパシーに予算がつぎ込まれるというのは理解できない。既に、複数の研究で、ホメオパシーには効果がないことが確認されているのだ。ホメオパシーは、代替医療の中でも、もっとも効果が期待できないものの一つである。研究によって「まやかし的な代替医療を医療界から駆逐する」ことになればよいのだけれども、海外の状況を考えるに、あまり期待できないと思う。

ホメオパシーは論外としても、どの代替医療を研究すべきか、という問題は難しい。たとえば、漢方薬は薬効成分が含まれており、また、これまでにエビデンスが得られているものもあるわけで、ホメオパシーに研究資金をつぎ込むぐらいなら、漢方薬につぎ込んだほうがずっとましだ。他の代替医療については?ホメオパシーと同様に論外なものから、漢方薬のように効果がある可能性があるものまで、様々である。科学的常識と先行研究から、どれぐらい見込みがあるのかは、ある程度は推測できる。きちんとした「仕分け」を期待したい。


実際の国会での発言は、■長妻厚労相がホメオパシーに言及した件 - Not so open-minded that our brains drop out.に詳しい。ホメオパシーの宣伝に利用される危険性についても述べてある。


「代替医療のトリック」は、チャールズ皇太子だけでなく、日本の政治家も読むべきであると言う指摘は、■Amazon.co.jp: 代替医療のトリックのajiiwaさんのレビューでもなされている。


kikulogでも言及されている。■長妻厚生労働大臣、予算委員会でホメオパシーについて(も)語る?。「代替医療のトリック」が基本文献になるであろうという指摘に賛成する。