NATROMのブログ

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ホメオパシー治療によるヒ素中毒

  ,j;;;;;j,. ---一、 `  ―--‐、_ l;;;;;;   ホメオパシーはきわめて
 {;;;;;;ゝ T辷iフ i    f'辷jァ  !i;;;;;  薄められているから害がない…
  ヾ;;;ハ    ノ       .::!lリ;;r゛ 
   `Z;i   〈.,_..,.      ノ;;;;;;;;>  そんなふうに考えていた時期が
   ,;ぇハ、 、_,.ー-、_',.    ,f゛: Y;;f.   俺にもありました
    ~''戈ヽ   `二´    r'´:::. `!


ホメオパシーが批判されている主な理由は、ワクチン否定といった現代医学否定と結びついているからである。ホメオパシーで処方されるレメディーは、元物質がほとんどあるいはまったく含まれないほどに希釈されており、ゆえに少なくともレメディー摂取そのものには害はないと一般的には考えられている。しかしながら、例外もあるようだ。インドでの話であるが、Chakraborti et al.が、2003年に、ホメオパシー治療によるヒ素中毒の3例を報告している*1。サマリーを引用して訳す。



Homeopathic medicine is commonly believed to be relatively harmless. However, treatment with improperly used homeopathic preparations may be dangerous. CASE REPORTS: Case 1 presented with melanosis and keratosis following short-term use of Arsenic Bromide 1-X followed by long-term use of other arsenic-containing homeopathic preparations. Case 2 developed melanotic arsenical skin lesions after taking Arsenicum Sulfuratum Flavum-1-X (Arsenic S.F. 1-X) in an effort to treat his white skin patches. Case 3 consumed Arsenic Bromide 1-X for 6 days in an effort to treat his diabetes and developed an acute gastrointestinal illness followed by leukopenia, thrombocytopenia, and diffuse dermal melanosis with patchy desquamation. Within approximately 2 weeks, he developed a toxic polyneuropathy resulting in quadriparesis. Arsenic concentrations in all three patients were significantly elevated in integument tissue samples. In all three cases, arsenic concentrations in drinking water were normal but arsenic concentrations in samples of the homeopathic medications were elevated. CONCLUSION: Arsenic used therapeutically in homeopathic medicines can cause clinical toxicity if the medications are improperly used.

ホメオパシー薬は比較的無害であると一般的には信じられている。しかしながら、不適切に使用されたレメディ*2による治療は危険であるかもしれない。症例報告:症例1は長期間のヒ素含有レメディに続く短期間のArsenic Bromide 1-X使用後に黒皮症と角化症を呈した。症例2では皮膚白斑を治療しようとしてArsenicum Sulfuratum Flavum-1-X (Arsenic S.F. 1-X)を摂取した後に砒素黒皮症が出現した。症例3は糖尿病を治療しようとしてArsenic Bromide 1-Xを6日間使用し、急性胃腸症とそれに続いて白血球減少、血小板減少、斑状落屑を伴うびまん性皮膚黒皮症を呈した。症例3は、およそ2週間以内に、中毒性多発神経障害が出現し四肢麻痺となった。3人の患者の髪や爪などの組織中ヒ素濃度はかなり高かった。3人の症例において、飲用水のヒ素濃度は正常であったが、ホメオパシー薬のサンプルのヒ素濃度は高かった。結論:不適当に使われるならば、ホメオパシー薬において治療的に使われるヒ素は臨床的毒性を引き起こしうる。


一言で言えば、ホメオパシー薬の中にはやたらとヒ素濃度が高いものがあるため、ヒ素中毒を起こしうるということ。"arsenic poisoning due to incorrect compounding of their homeopathic preparations.(レメディの不適切な混合によるヒ素中毒)"とあるところから使用方法が不適切であったのは確かなようだが、同時に"we found evidence of poor quality control in the preparation of homeopathic medications containing arsenic(我々はヒ素含有レメディにおける劣悪な品質管理の証拠を発見した)"ともある。市販されているレメディのヒ素濃度を測定すると、ヒ素濃度が低いはずの製品で高いヒ素濃度を示したりした。"Since there is little quality control and no prescribing rules or regulations for the sale of homeopathic medicines, the potential toxicity of the product puts users at significant risk.(ホメオパシー薬販売のためのルールあるいは規制はなく、ほとんど品質管理がなされていないため、製品の潜在的毒性はユーザーにとって重大なリスクになる)"とのこと。

症例が摂取したレメディのヒ素の濃度は、たとえば症例3では53.5 g/Lとある。アルコール溶液のタイプで、本来は水に数滴垂らして服用するものらしい。症例3の合計摂取量は6日間で144mg(As3+として)とあり、原液で3cc弱相当である。ヒ素の毒性について調べてみたら「5〜50mgで中毒症状をおこし、致死量は5〜7mg/kg」とあった*3。体重50kgとしたら、致死量は250〜350mg。原液で約5cc〜7ccである。かなり危なかった。

通常の市販薬だって用量・用法を間違えれば危ないのであるが、そもそもホメオパシーは適切な量を使用したってプラセボ以上の効果はないのであり、リスクと見合わないだろう。また、市販薬は、医師が処方する薬と比較して安全なものに限られ、同成分の薬でも用量は少なめに設定してある。一方、ホメオパシーでは、希釈すればするほど効力が高まるとされているため、低希釈のものはセルフケアに使用され、高希釈のものはホメオパスでないと処方できなかったりする*4。逆だろ。

上記症例はインドのものであり、先進国のホメオパシーなら安全だと思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、「忘却からの帰還」の■嗅覚喪失という副作用のあるホメオパシーレメディに対してFDAが警告・消費者に使用停止と破棄を勧告で述べられたように、先進国で販売されているレメディにも有害なものがある。レメディに薬効があるのなら、実は有害であるという小さい可能性に目をつぶるのもいいだろう。しかし、何度も述べるように、レメディにはプラセボ以上の効果はないのである。わざわざ高い金を払って、何が入っているのかわからない砂糖玉を、何度も子供に飲ませるのは賢いとは言えない。


*1:Chakraborti D et al., Arsenic toxicity from homeopathic treatment., J Toxicol Clin Toxicol. 2003;41(7):963-7.

*2:homeopathic preparationsをレメディと訳した

*3:URL:http://www.cute.to/~dent_rie/hiso.htm

*4:「希釈回数が多くなればなるほどポーテンシーは高くなり、ポーテンシーが高いほど、過去のトラウマや遺伝的な疾患などの深い部分に。低いほど、比較的浅い子供の熱などの急性症状などに作用すると言われています。(中略)家庭で使用するなら、やはり30C・200Cのものが適していると考え、キットは30C・200Cで構成されています。エレメントセットに入っている、12XのXは10倍稀釈を意味し、ホメオパシー的ビタミン・ミネラルと考え使用してみてください。Mは100万倍希釈を意味し、ホメオパス(ホメオパシーの専門家)にかからないと、処方することは出来ないポーテンシーです。ご自身でキットをお使いいただき、高ポーテンシーを試してみたいと思われた方は、電話相談をご予約下さいね。」 URL:http://www.homeo-re.com/hpgen/HPB/categories/35432.html